第四回復興政策賞・計画賞・設計賞 受賞作品

2022年10月29日、31日に復興デザイン会議第三回「復興政策賞・復興計画賞・復興設計賞」の最終審査委員会(審査委員長:羽藤英二)を実施し、厳正な審査の結果、受賞者7件(政策賞2件、計画賞3件、設計賞2件)を決定いたしました。

復興政策賞

石巻市北上町「平地の杜づくり」~被災した集落跡地を心地よい場所へ蘇らせる挑戦~

【受賞者】一般社団法人ウィーアーワン北上、宮城県石巻市、NPO法人地球守

【審査員コメント】

本プロジェクトは、震災以前に宅地であった場所が防災集団移転後に荒廃していく姿を見て、人々が再訪したくなる場所へ蘇らせようという挑戦である。人が手を掛けなくても樹木や雑草が成長することで “自然” へと回帰していくことが予想される。しかし、居住空間周辺の自然である里地里山は、本来は人間の手が適切に加わる中で創り出される環境である。本プロジェクトは 232 世帯が住んでいた場所を人が手を加え続けながら自然へと預け直す試みで、里地里山の思想を非居住の平地の杜づくりへと進展させる試みである。10 年後、15 年後にも思想が受け継がれ、より良い自然環境が育まれるためには地域内外の人々の継続的活動と繋がりも重要になるが、里山として再生する「逆転的開発」の発想は移転元地のみならず、他の人口減少地域にも示唆を与えるものであり、復興政策賞として選定する。

復興交付金制度

【受賞者】復興庁

【審査員コメント】

復興交付金は、復興特区法に基づき、東日本大震災により著しい被害を受けた地域における復興地域づくりに必要な事業を一括化し、一つの事業計画の提出により、被災地方公共団体へ交付金を交付したものであり、被災地の復興を支える中核的な制度であった。国土交通省・農林水産省等の 5 省の 40 事業の関連する事業の一括化のほか、自由度の高いハード・ソフト事業に対応する効果促進事業、地方負担に対する地方交付税の手当て、基金の設置による交付・繰越・変更等の手続きの簡素化等、過去の震災への対応にはない極めて柔軟な仕組みであったため、早期かつ円滑な復興地域づくりを可能にしたことを高く評価する。なお、具体の執行における課題等について、復興庁における「東日本大震災の復興政策 10 年間の振り返りに関する有識者会議」において始められた議論や各地方公共団体の実績評価等を踏まえ、今後の復興政策の立案において対応されることを期待したい。

復興計画賞

岩沼市防災集団移転促進事業(玉浦西のまちづくり)

【受賞者】玉浦西まちづくり住民協議会、岩沼市

【審査員コメント】

津波で被災した沿岸部6地区を市街地に隣接するエリアに集約することで、建設コストの抑制、住民サービスの効率化に優れ、復興のスピードアップ、コミュニティの維持に地域住民の力が大きく貢献した事例である。旧沿岸部6地区の画地割、災害公営住宅の配置、公園の整備方針など、多くのプランづくりに被災住民や近隣住民などが主体となって関わり、将来にわたって愛着の持てるまちを作ろうとする熱い想いが感じられ、地区代表者が意見を取りまとめることで、規模の大きな 100 戸以上の集団移転としては最も早い完成に導いている。こうしたプランづくりは、被災前のコミュニティを繋ぎ、さらには公園やいぐね(屋敷林)の維持管理に住民自らが提案し参加しており、現在もこうした活動を通して新たなコミュニティーが生まれ繋がるなど、住民一人ひとりの力で新たなふるさとを創り、育てていく事例としても高く評価したい。また、専門家や学識経験者、行政が住民をサポートする体制をつくったことも見逃せない。

気仙沼内湾ウォーターフロント・「迎」ムカエル・「創」ウマレル・「結」ユワエル・「拓」ヒラケル

【受賞者】内湾地区復興まちづくり協議会、阿部俊彦、気仙沼地域開発、住まい・まちづくりデザインワークス、デキタ、アール・アイ・エー、オンサイト計画設計事務所、ぼんぼり光環境計画、街制作室、青土、宮城県、気仙沼市

【審査員コメント】

2011 年 3 月に発生した東日本大震災で甚大な被害が発生した宮城県気仙沼内湾地区において,美しい港町の景観と地域文化の継承を安全性の確保と両立すべく提案されたものです.本計画は,2011 年 12 月に開催された復興まちづくりコンペでの提案をきっかけとし,丁寧な合意形成プロセスを経て,海とまちが連続した景観を創出するに至りました.ここでは,防潮堤の海側に斜面緑地,ステップガーデン・回廊等を設置し,まち側に建築を配置したうえで,建築から片持ちで張り出したデッキで防潮堤を覆う工夫を施しており,防潮堤上部が建築と一体となった歩行空間になることにより,安全性を目的とした防潮堤が立体的な住民の居場所にもなっています.そしてこの空間を実現するために,まちづくり会社が気仙沼市から土地を借用したうえで施設を建設し,防潮堤と岸壁は宮城県が整備し,公園は宮城県と気仙沼市が整備するなど,多主体事業連携による整備とエリアマネジメントがなされています.以上のように,安全性と景観・地域文化の継承という復興時に求められる要素を最大限同時追及しようとした景観デザインを提案し,復興まちづくり協議会による丁寧な合意形成を行い,そして多主体事業連携によるデザインの実現とエリアマネジメントを実現していることから,本事例は復興計画賞に相応しいものであると評価し,これを選定いたします.

三陸沿岸道路(仙台~八戸)約359km

【受賞者】国土交通省東北地方整備局

【審査員コメント】

東日本大震災が発災した 2011 年に仙台から八戸まで沿岸部の集落と町を結ぶ 359km の道路として計画されている。それまで三陸沿岸の高速道路の供用率は僅か約36%であり、東日本大震災発災によって国道45号を大動脈としてきた仙台 – 宮古間の移動に 7 時間以上も要していた。発災直後から東北地方整備局を中心に計画策定が進められ同年 11 月 21 日極めて短期間に事業化が決定されたことはその後の全ての復興計画に大きな影響を与えたといえよう。復興道路の計画にあたっては津波浸水域を回避しつつも、三陸の複雑な地形を読み込み低平地との関係を活かし復興まちづくりと連携できるようルートの絞り込みがなされている。さらに防災拠点とのアクセスや高速道路自体が避難所としての機能を有するように IC の形式や配置にもそれまでにはない多くの工夫がなされていることは特筆に値しよ
う。歴史的に見て三陸津波復興は町の重心移動を促す道路整備の歴史といってもいい。発災から町からの人口流出に歯止めがかからなかった現場では、集住に決定的な影響を与える交通軸を町のどこに通すかは大問題であった。防潮堤高さとの釣り合いのなかでその後の高台移転や産業の再生に基づく住民の帰還を決定づけた復興道路の功績は我が国の土木計画を代表する計画といっていい。これらを総合的に評価し、復興計画賞としてこれを表彰する。

復興設計賞

くまもとアートポリスによる「みんなの家」の取組み

【受賞者】熊本県

【審査員コメント】

熊本アートポリスは磯崎新を初代コミッショナーとして建築や都市計画を通して文化の向上を図ろうというコンセプトで立ち上げられた熊本県の事業であり、30 年以上の優れた歴史を有することから国内外の専門家から高く評価されてきたが、熊本地震以降その活動が復興設計の新たな枠組みを提示していることは特筆に値しよう。熊本アートポリスの枠組みによって工藤和美や内田文雄たちの手による復興住宅が竣工していることは優れた成果の一つといっていい。同時に熊本アートポリスでは小さな地域の拠点となるみんなの家をプッシュ型で展開した後に復興後のまちづくりの中でみんなの家の再利用を図っている点を今までにない復興設計分野における新たな取り組みとして高く評価したい。被災地における住まいの再建は同時に応急仮設住宅団地の閉鎖を意味している。熊本アートポリスはこうした再建後の被災コミュニティの断絶に着目して、被災された方々の憩いの場として活用されてきた「みんなの家」をコミュニティ形成や地域づくりの拠点として移築等を通じてさらなる利活用を図っている。このような熊本県と建築家たちの取り組みは今までにない持続可能な復興まちづくりの新たな建築設計概念を提示しているといっていいだろう。チャレンジショップやこども図書館、コミュニティセンターや保育施設、託児所にコワーキングスペースまで、生まれ変わったみんなの家の形は実に多様であり、復興建築の新たな可能性を具現化していることから、熊本アートポリスを復興設計賞として表彰する。

小さくても地域の備えとなる災害支援住宅 「神水公衆浴場」

【受賞者】株式会社ワークヴィジョンズ、竹味佑人建築設計室/ワークヴィジョンズパートナー、株式会社黒岩構造設計事ム所

審査員コメント】

神水公衆浴場は、2016 年熊本地震により被災したオーナーによる自宅再建のプロジェクトです。震災後に「地域のみなさんがお風呂で苦労していた」ことを知る経験から自宅の風呂を開放するというアイデアが生まれ、公衆浴場という体裁を整えたというユニークさと実行力に驚かされます。また、構造設計者であるオーナーは本プロジェクトの構造設計を行うだけでなく、自らが元請けとなって分離発注を行いながら工事費を圧縮し、被災後の資材高騰を乗り切ったようです。こうして建築設計の専門性を大いにいかしながら生まれた空間は、美しく丁寧に組まれた木造の架構が小さな浴場に感覚的な広がりを与え、ちょっとした非日常の楽しみを演出しています。また、道路に面する土間は開放感があり地域住民にとって憩いの場になっているようです。こうして地域住民の拠り所となる場所をちりばめておくプロジェクトは、行政による防災対策を積極的に補う事前復興の一端を担うものとしても意図されています。去年は民間企業によるプロジェクトが復興設計賞として評価しましたが、本プロジェクトはより粒の小さい「個人」が復興に寄与せんとしたものであり、これまでにない復興のあり方を切り開いたものだと評価できます。以上より、2016 年熊本地震からの復興デザイン・設計賞として選定します。