第三回復興政策賞・計画賞・設計賞 受賞作品

2021年11月9日、10日に復興デザイン会議第三回「復興政策賞・復興計画賞・復興設計賞」の最終審査委員会(審査委員長:羽藤英二)を実施し、厳正な審査の結果、受賞者8件(政策賞2件、計画賞3件、設計賞3件)を決定いたしました。

復興政策賞

雄勝ローズファクトリーガーデン

【受賞者】一般社団法人雄勝花物語千葉大学大学院園芸学研究院秋田典子研究室

【審査員コメント】

雄勝ローズファクトリーガーデンは、東日本大震災の巨大津波により壊滅的な被害を受けたかつての雄勝町中心部において、被災住民が“花と緑の力で”を合言葉に、被災者の慰霊場、被災者・支援者の交流の場として作られた庭園であり、地域交流拠点である。震災直後から慰霊のために花が植えられ始め、地域住民と多くのボランティアにより、2012年には530坪のメドウガーデンを完成させた。2017年に復興道路の建設により移転を余儀なくされたが、年間1000人のボランティアとともに移植が行われ、生き生きとした庭園として整備・運用が続けられている。現在に至るまで、被災者支援、雇用創出、防災教育、環境教育などの様々な取り組みが行われてきたが、本ガーデンは、癒し・交流の場にとどまらず、被災者と故郷をつなぐ拠点、人と人の心のつながりを生む拠点として重要な役割を果たしてきた。また、本ガーデンでの活動は、「雄勝ガーデンパーク構想」に発展するなど、まちづくりならびに政策上の展開も認められる。この取り組みは「災害危険区域」に指定された低平地の土地利活用に大きな示唆を与えるものであるため、これを評価し、復興政策賞として選定します。

復興CM方式

【受賞者】独立行政法人都市再生機構

【審査員コメント】

東日本大震災で被災した12 市町 19 地区の「復興市街地整備事業」に導入された事業執行の方式である。UR(発注者)が、被災市町(事業主体)から委託を受けた上で、CMR(受注者、建設会社と設計コンサルタント会社等とのJV)と基本協定に基づく請負契約等を締結するもので、国内の公共事業では活用されていない「マネジメントの活用」、「コストプラスフィー契約・オープンブック方式」、「リスク管理費」等の新たな仕組みを導入した。 この方式により、被災市町の圧倒的な職員不足、極めて大規模な土木工事、整備計画変更の可能性等の課題に対して、URのノウハウやCMRが保有する民間技術力を最大限活用し、発注者のマンパワーの補完、透明性・公平性の確保等を図りつつ、早期復興の実現に大きく貢献したことが、高く評価される。 今後の大災害への対応のみならず、通常の公共工事における新たな入札契約方式としても将来的な可能性がある。この際、スケジュールやコストの制約などの中で、地域特性や実際に居住する地域住民等の意向に、より対応できる仕組みとなっていくことを期待したい。 

復興計画賞

気仙沼大谷海岸の再生

【受賞者】大谷地区振興会連絡協議会大谷里海づくり検討委員会

【審査員コメント】

気仙沼市大谷海岸は、環境省選定海水浴場百選に選定されるなど、海水浴場として多くの人で賑わった砂浜海岸である。2012年に砂浜のすべてを埋め立てる防潮堤建設計画が持ち上がったが、防潮堤のセットバック、これにより重なる国道45号線のかさ上げを行うことで、伝統のある砂浜海岸を震災前と同規模で残し、安全性や利便性にも優れ、自然と調和したまちづくりが実現されている。 本計画は、地域の宝である砂浜を守りたい住民の想いが、自らのまちづくりを考え、気仙沼市の積極的な理解、支持が後押しとなり、国道管理者の決断、市による国道背後地のかさ上げ、計画との整合を考えた海岸管理者の所管替え、行政間の横の連携を図るための復興庁の支援、JR線のBRT化に伴う沿岸路線の土地の譲渡など、一見すると困難と思えるような課題の解決や震災によって変化した地域事情を的確に取り込むことなどで実現されており、プロセス面でも優れたものとなっている。大規模災害からの復興では、一定の合理性を求めることが必要な場面も多い。本計画は、多くの解決すべき課題がある中でも地域の事情を踏まえて実現されたまちづくりの先例であり、政策的な意義も大きく、これを評価し、復興計画賞として選定します。 

石巻南浜津波復興祈念公園

【受賞者】国土交通省東北地方整備局東北国営公園事務所宮城県石巻市

【審査員コメント】

2011年3月11日の東日本大震災で被災した岩手・宮城・福島の3県には、追悼、伝承の場として各1箇所の復興祈念公園が設置されることとなり、宮城県では、津波で甚大な被害を受けた石巻市の中でも500名以上の方が亡くなられた南浜の住宅地がその対象地として選定されました。他の2公園と石巻南浜津波復興祈念公園の最大の違いは、元々住宅地であったこと、多くの方がその場で亡くなられたという点にあります。この重い課題に真摯に応えるため、関係者が復興祈念公園や追悼のあり方について深く悩み掘り下げ、試行錯誤しながら公園を造った軌跡が復興計画賞として高く評価されました。石巻南浜では、復興祈念公園という場が、被災によって厳しい状況に置かれた市民の想いや市民活動を受け止める役割を果たしたことが特筆に値します。この空間は、震災直後から続く「がんばろう!石巻」に象徴される市民による復興への想いを受け止め、追悼の想いを込めた生命のいとなみの森づくりのための市民活動を公園の造成・施工期間中にも継続し、公園の開園後にも引き継がれています。このように事業期間中も敷地内で市民活動を包摂する試みは関係者の努力なしには成立しえず、市民と事業関係者の信頼関係や協働のあり方、大規模事業の施工時における市民活動の継続という観点から、他の事業への横展開の可能性も示唆する先導的なものであると言えます。以上のことから、本公園は復興計画賞に相応しいものであると評価し、これを選定いたします。

黒潮町の復旧・復興までを見据えた分野横断的な事前防災の取り組み

【受賞者】黒潮町

【審査員コメント】

南海トラフ巨大地震による最大震度7m,津波の最大高さ34.4mという被害想定が公表された黒潮町では,甚大な被害から「あきらめない」という防災思想をつくりあげることをモットーとして,文明(ハード)と文化(ソフト)を組み合わせた総力戦の防災対策を行っています.これは町内全61地区を対象とした地区防災計画の策定や,ワークショップでの課題抽出に基づく避難経路・避難場所の整備計画検討など実効性の高い取り組みから,生業の機会創出を目的とした34Mブランドの缶詰開発などユニークなものまで様々です.なかでも黒潮町では,高台で一団地の津波防災拠点市街地形成施設を計画し,防災機能を高めた町役場庁舎の移転を行うとともに,公共施設や教育施設等の安全な地域の防災拠点整備を図っており,今後は大規模な高台宅地造成にも着手するということです.これは整備中の四国横断自動車道とも連携して,施設との連携・連絡,建設発生土の有効活用等を行う多主体連携のものになっています.そしてここでは,被災後の復旧・復興計画に向けた施設配置の検討や,応急期機能配置計画の策定,防災協力農地制度等による民有地の活用による復旧活動の円滑化も十分に考慮されています.以上のように,黒潮町では発災時の犠牲者ゼロの達成から復旧・復興までを見据えて,分野横断的かつ多主体が連携した取り組みを行っており,地域のレジリエンス向上のみならず,この取り組みがコミュニティの再生や地域づくりにも寄与しています.このような黒潮町の取り組みは,未災地における減災対策と事前の復興・復興対策を総合化した地域モデルとして先駆的と考えられ,復興計画賞として選定します. 

復興設計賞

気仙沼復興橋梁群

【受賞者】大日本コンサルタント株式会社、株式会社長大、国土交通省東北地方整備局仙台河川国道事務所、宮城県気仙沼土木事務所

【審査員コメント】

気仙沼湾横断橋は、東北復興において三陸の不便を解消するために計画された三陸自動車道の要と言える海上部680mの橋梁であり、気仙沼湾を南北に結び,100 mの塔から路面中央部で桁を支える一面吊りの斜張橋です。2面吊り斜張橋に比べてケーブル本数を少なくすることで格段に管理しやすく、又さまざまな災害想定を繰り返し破壊や侵食のメカニズムに基づいて丁寧な設計が行われました。力学的に素直に設計された主塔の逆Y字も美しく、ウェブの設えによって桁がよりすっきりと下からも見えるなど、意匠面での工夫も際立っています。一方、気仙沼大島大橋は、東日本大震災で長期孤立を余儀なくされた大島と気仙沼を結ぶ橋です.瀬戸の水深がとても深いことから、杭・橋脚を設けない鋼中路アーチ橋が選定されました。356mの長いアーチが印象的ですが、維持管理しやすい内空構造を採用し、緊急輸送路としての長期的な機能も着実に実現しています。気仙沼市街のさまざまな場所から、気仙沼大島大橋と気仙沼湾横断橋は時に重なり合い,見え隠れしつつ、さまざまな土地とつながりあう気仙沼の新たな都市的風景の象徴として定着しつつあります。両橋を東日本大震災からの復興デザインを代表する気仙沼復興橋梁群としてこれを評価し、復興設計賞として選定します。

川原川・川原川公園

【受賞者】

(発注者)岩手県陸前高田市UR都市機構

(監修)吉村伸一

(県設計)アジア航測株式会社

(市設計)株式会社オリエンタルコンサルタンツ清水・西松・青木あすなろ・オリエンタルコンサルタンツ・国際航業陸前高田市震災復興事業共同企業体緑景・共立設計設計共同体

【審査員コメント】

川原川は陸前高田の市街地を流れる河川であり、震災前の骨格が残る数少ない場所のひとつです。大規模なかさ上げによる大きな高低差を解消するための緩傾斜河岸は河川空間と周囲の街並みを滑らかにつなげながら、街中からごく自然に水面に近づける環境を形成しています。また、復興公園などにもつながっています。公園を横断する小規模な橋梁群は、見上げの視点からも丁寧にデザインされ、くぐり抜ける楽しさを生み出しながら、震災前の橋の位置に設置された潜り橋と共に公園の遊歩道のシーケンスを豊かなものにしています。河岸は捨石処理やバーブ工などによる多自然型の処理によりサケの遡上や大量の魚の群も観察される状況が生まるなど、山と海が一体となった豊かな生態系をもった水辺の空間を生み出しています。こうした魅力にあふれた親水空間は県による河川整備と市による公園整備が組み合わせられたものですが、河川アドバイザーの存在や緻密な調整により、制度的境界線は全く感じらないものとなっています。また、検討時の市民ワークショップによる丁寧な聞き取りにより生活と水辺の関係が再構築され、新たな風景のデザインが成功しています。これらの取り組みを評価し、東日本大震災からの復興デザインとして復興設計賞として選定します。

民間主導による観光拠点「HASSENBA」再建プロジェクト

【受賞者】球磨川くだり株式会社、タムタムデザイン、ASTER、PREODESIGN、株式会社一平ホールディングス

審査員コメント】

HASSENBAは,令和2年7月豪雨により被災した球磨川下りの人吉発船場をリノベーションした観光複合施設です。まず驚かされるのは,そのスピード感です。豪雨により,発船場は1階が1.5メートル浸水し,川くだりの舟は全て流出するなどの甚大な被害を受けましたが,1週間後には泥出しや掃除を終え,1ヶ月後にはプロジェクトチームを作って再スタートに乗り出しました。プロジェクトの具体化にあたっては,なりわい再建補助金を有効に活用するなど,民間ならではの実行力で,被災からわずか1年で再建されています。また,再建されたHASSENBAは,被災前の乗船券発売所と待合室の機能だけではなく,地域交流を促すカフェやショップ等も合わせた人吉市民にとっても望んでいた複合施設となっています。またその空間も,球磨川越しに人吉城を望むという素晴らしいロケーションを最大限に活かした開放的で居心地の良いものです。被災建物が解体され空き地が広がる人吉において,晴れやかな気持ちで気持ちよく集える場所が存在することの価値は計り知れません。過去2回の復興設計賞は全て公共プロジェクトが受賞していますが,公共が届かないことを,優れたパブリックマインドを持って実現しており,新しい復興の姿を示すものだと評価できます。以上より,令和2年7月豪雨からの復興デザインとして復興設計賞として選定します。

2021年度 復興政策賞・計画賞・設計賞座談会