第七回復興政策賞・計画賞・設計賞 受賞作品

復興デザイン会議第七回「復興政策賞・復興計画賞・復興設計賞」最終審査委員会(審査委員長:羽藤英二)を実施し、厳正な審査の結果、受賞作品を決定いたしました。

復興政策賞

盛岡市における広域避難者への継続的支援

【受賞者】もりおか復興支援センター(一般社団法人 SAVE IWATE)、盛岡市

【審査員コメント】

 東日本大震災の直接被害が沿岸部に比べて軽微であった盛岡市では,もりおか復興支援センターによる広域避難者への継続的支援が行われた.ここでは,定期訪問や窓口・電話相談による生活状況把握,個別の状況に応じたきめ細かい生活再建支援のみならず,被災元への帰還支援や被災者の孤立を防ぐ外出・交流機会の創出,そして被災者の雇用,被災地の支援情報発信,被災地の文化継承,地域住民との交流を目指したイベント開催に至るまで多岐にわたる先駆的な取り組みを官民連携による支援で行っており,震災から15年が経過した現在もなお避難者への支援を継続している.
本事例の特筆すべき点は,広域避難者支援の方針が確立されていない時代において,独自に予算を確保して避難者への支援を継続的に実践し,「被災者が気軽に⽴ち寄れる開かれた場所を作る」,「定期的な訪問で世帯員⼀⼈ひとりの状況変化を⾒逃さない」という理念の有効性を見出すなど,以降の広域避難者支援のあり方に大きな示唆を与えるものであり,復興政策賞にふさわしい好事例と考えられる.

【受賞コメント】

 この度は、栄誉ある賞を賜り、心より感謝申し上げます。広域避難者への支援は、災害が頻発化・激甚化している近年において、重要な取組であると考えております。この賞を励みに、もりおか復興支援センターが行ってきた取組を一つのモデルとして、今後起こりうる災害に対する支援に生かしていけるよう取り組んでまいります。(盛岡市)
 あの日から14年半が過ぎました。未曾有の災害によって多くの被災者の方々が、何かを頼って、また何かを求めて、広い地域に避難されました。その状況は支援する私たちが見ても壮絶なものでした。かつて経験のない広域避難者への支援はまさに手探りでしたが、「伴走支援による生活再建と心の復興」という言葉を励みに活動してまいりました。
この度、その活動に光を当てていただいたことに、心より感謝を申し上げます。公的な支援終了を間近に控え、不安も感じている中ではありますが、これまでの活動を元に今後もできる支援を継続してまいります。(もりおか復興支援センター)

小松市による広域避難者の受け入れ初動対応

【受賞者】小松市

【審査員コメント】 

 能登半島地震における小松市の広域避難支援は、正月早々の混乱下で開始されながら、温泉地の旅館を基点に、生活の段取り(契約・住宅・介護)、心の段取り(交流・楽しみ)、安全網(戸別訪問・安否確認)を統合した支援を丁寧に実施した。避難初期から入浴・送迎・交流拠点を整え、医療機関への受診調整や介護予防にも取り組む一方、みなし仮設住宅など仮の住まいに関する説明会や相談までを一体で伴走し、被災者の心身回復と生活再建を現場で支えた点が際立つ。特に帰還か定着かという居住地選択の局面までを継続的にケアしたことは、災害対応を超えた地域福祉の実装といえる。前年度の豪雨災害の経験を踏まえ、温泉地の運営資源と地域ネットワークを活かした広域避難の取組は、全国に展開可能な先導的復興モデルとして高く評価されよう。

【受賞コメント】 

 復興デザイン会議様より復興政策賞を賜り、心より感謝申し上げます。小松市が石川県からの要請を受け、広域避難者の受け入れを決断した際には、具体的な手順や支援内容が定まっていない状況でした。しかし、豪雨水害時の経験を活かし、社会福祉協議会、医師会、ホテル・旅館関係者など多くの方々の協力を得て、迅速かつ実効性のある支援を実現できました。改めて、日頃からの皆様との連携の重要性、また職員一人ひとりが主体性を発揮し、刻一刻と変化する状況をキャッチし支援に反映させていくことの重要性を実感しております。この受賞を励みに、防災・減災へのさらなる取り組みに力を注ぎ、災害に強い地域づくりを一層推進してまいります。

復興計画賞

石巻市北上町にっこり団地計画

【受賞者】にっこり北住民有志の会、北上地域まちづくり委員会、特定非営利活動法人パルシック、石巻市北上地区復興応援隊、宮城県石巻市、日本建築家協会東北支部宮城地域会北上支援チーム、北海道大学・法政大学支援チーム

【審査員コメント】

 にっこり団地計画は、震災後の混乱の中で住民の声を丁寧に反映させたプロセスが評価される。居住希望世帯数の変化等に起因する計画変更に対して、住民の声を丁寧に反映させながら柔軟な調整がなされ、質の高い居住環境とコミュニティ形成を促進する住宅地の形成に成功した。空間的には、当初の丘陵地の造成計画を見直し、総合支所、警察、消防署、郵便局などの行政機能、こども園と小学校という教育機能が集まる地域中心への近接性、連続性を確保している。平家連坦型の復興公営住宅の共用空間を緑道的に配置し、地域中心と自治会集会所に連結させて、日常の利便性とコミュニティ形成に繋げる工夫がなされている。本団地は、不確実性が避けられない復興事業の中で、住民の理解と協働に基づく動的な計画プロセスのあり方を体現しており、今後の災害復興計画の模範となるものであり、復興計画賞にふさわしいと判断できる。なお、本団地においても将来人口の減少は避けられず、共用部分の利用・維持補修などの課題について、今回の受賞を契機として議論されることを期待したい。

【受賞コメント】

 この度は、第7回復興計画賞にご推薦いただき、誠にありがとうございます。
「石巻市北上町にっこり団地計画」の受賞は、にっこり北住民有志の会、北上地域まちづくり委員会、特定非営利活動法人パルシック、石巻市北上地区復興応援隊、石巻市北上総合支所、日本建築家協会東北支部宮城地域会北上支援チーム、北海道大学・法政大学支援チームの皆様が、震災後の混乱の中で住民の声を丁寧に反映させ、質の高い居住環境とコミュニティ形成を促進する住宅地を形成された成果です。
本計画は、不確実な復興事業の中で、住民の理解と協働に基づく動的な計画プロセスを体現したものであり、今後の災害復興計画の模範となるものであれば幸いです。この栄誉を心より感謝申し上げます。

復興設計賞

九州の流域全体で進める、風景を育む複合的・段階的河川整備と協働体制

【受賞者】国土交通省九州地方整備局企画部・河川部・熊本河川国道事務所・山国川河川事務所・川内川河川事務所、小林一郎(熊本大学)、島谷幸宏(九州大学/熊本県立大学)、星野裕司(熊本大学)、増山晃太(株式会社 風景工房)

【審査員コメント】

 国交省九州地方整備局が管轄する河川の災害対策事業では、現場を担当する事務所と企画部が連携し、景観カルテの作成・活用による治水と景観の両立が図られている。景観カルテとは各種事業によって形成される景観の方向性や実現するための留意点等を初期・設計・施工の段階毎に作成・更新する引き継ぎ資料に当たるもので、2007年より続く取り組みである。担当者が異動しても一貫したデザイン監理および一体的な景観整備に寄与し、他地方整備局でも試みられた景観形成管理システム中、九地整は最も継続かつ先進的実績を残している。本カルテに基づく山国川での床対事業では名勝保全と防災の両立が、川内川激特事業における曽木の滝分水路では防災と観光資源の共存、さらに白川の事業では防災のみでなく市民に開かれた水辺空間の創出が達成された。これらはいずれも長く取り組まれたカルテによる協働の成果であるとともに、災害復興における優れた土木景観の形成を導いた好例といえる。復興設計賞にふさわしいものとして高く評価したい。

【受賞コメント】

 この度は栄誉ある賞を賜り、心より感謝申し上げます。九州地方整備局では、事業の初期から完成まで一貫して良好な景観形成を図ることを目的に、景観に関する基礎情報や各検討段階での検討内容や体制等をとりまとめた引継ぎ資料として景観カルテの作成を行っています。今回の事業においても、景観カルテに記載されている、これまでの「想い」を引継ぎ、良好な景観形成を図るべく事業を行いました。今後もこの賞に恥じないよう、風景・景観に配慮した河川整備を継続して参ります。

次代を見据えた市民協働型の学校建築

【受賞者】陸前高田市教育委員会、学校づくりデザイン会議、株式会社設計領域、復建調査設計株式会社、株式会社SALHAUS、綾井新建築設計、株式会社土屋辰之助アトリエ、株式会社教育環境研究所

【審査員コメント】

 陸前高田市立高田東中学校、気仙小学校の建設プロジェクトは、被災地における学校建築のあり方に対し、設計者・行政・地域が協働する持続可能な「設計の仕組み」を丁寧に築き上げた点が高く評価される。その丁寧さはまず、設計者選定時に提出されたプロポーザル実施要領に表れている。そこには設計業務のみならず「学校づくりのワーキンググループ」の一員として市民参加ワークショップのなど運営を行うことが示されており、どのような学校を作るべきかという仕様の作り込みと設計が同時に行われるという「フレーム」が明確に指定されている。この「フレーム」は厳しい予算と工程を前提とせざるを得ない復興プロジェクトにフレキシビリティを与えるものだったと考えられるが、こうした判断は実務経験や現場知識が豊富なメンバーの存在があって初めて生まれるものである。要項づくりにおいて「設計そのものの設計」が意識的に行われたことは、復興プロジェクトとしても、また、復興プロジェクトを超えた一般的な発注形式の議論に対しても貴重なものであったと言える。ましてや、平成24年という、いまだ混乱が続く現場での判断であったことも記憶しておくべきだろう。また、2012年の公開ヒアリングでは市民や中学生代表が直接意見を述べる機会が設けられたという。災害復興という特殊な状況を踏まえ、設計の初期段階から市民参加を取り入れたこの選定プロセスは、復興まちづくりの新たな可能性を示すものである。
 選定後、陸前高田市立高田東中学校では4年間にわたり生徒・教員・地域住民と継続的にワークショップを重ねた。単なる意見聴取にとどまらず、図書室や多目的ホールを地域に開いた配置とするなど、地域の「居場所」として機能する建築計画へと昇華させた。特に、地元産スギ材を用いたカテナリー状の木の大屋根は、地域住民や中学生からも強い共感を得た象徴的なデザインであり、安心と一体感をもたらす空間として復興のシンボルとなった。陸前高田市立気仙小学校は敷地が造成中に設計が行われたということを忘れさせるほど、土地に根付いた姿となっている。周辺の住宅と違和感なく併存できるスケール感や、まちの一部となる開放性が追求された結果と思われる。また、地域での対話から地域の芸能が披露できるホールをと途中で追加するなどのフレキシブルな対応により、子供達が中心とかじられる学びの環境が丁寧に作られていた。
 これら二つのプロジェクトは、設計者が責任ある立場で地域と向き合いながら経験を蓄積する実践の場ともなり、次世代の災害復興を担う人材育成にもつながった。また「良い学校ができること」が地域に確かな実感を与え、高台移転を選択する住民が徐々に増えていくという復興の実質的な動きを生み出した。単体の建築作品として評価するのではなく、地域と共に歩み、仕組みそのものから丁寧に作り上げ、確かな社会的効果をもたらした復興の実践として、本プロジェクトは復興設計賞にふさわしい。

【受賞コメント】

 復興設計賞の受賞、大変光栄に思います。本市の学校再建は、地域の子ども達の学びと未来を守るため、子ども達、地域の方々をはじめ多くの皆様と共につくり上げたものです。本受賞を励みに、これからも地域と共にある学校づくりに励んで参りたいと考えております。

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