第6回復興デザイン研究賞 受賞者

復興国内外の復興に取り組んでいる個人、自薦・他薦合わせ17名の候補者に対して、彼らの主要論文・関連論文を推薦理由も参照し、審査員で評点付け、審査委員会にて受賞者を決定しました。

最優秀研究賞

上原三知(信州大学)

 「Design with Natureの応用による東日本大震災における災害予測と復興デザインの連続的な展開」

【受賞理由】米国のランドスケープ・アーキテクチャーの主要な計画理論であるDesign with Natureの応用として、1980 年の貴重な環境区分図と東日本大震災の災害リスクの得点をデジタル化し、事前災害予測および復興計画におけるデータとプロセスの有効性の検証を持続的に行い、マルチスケールな範囲を対象に震災被害を事前に高い精度で評価できる可能性を示した。一般的には別々に実施される環境(リスク)評価と復興計画において、Design with Nature 理論で連続的に実現する可能性を学術的に再評価し、未曾有の大災害からの復興計画にも応用する努力がなされ、復興デザインへの貢献という点においても高く評価された。

優秀研究賞

奥村誠(東北大学) 

「津波遭遇リスクを最小化する歩車混合避難交通の最適化に関する研究」

【受賞理由】数理最適化モデルを応用し、津波に対するリスクを最小化する避難交通配分モデルを提案し、交通渋滞の影響分析、避難誘導有無の比較、歩車混合型拡張モデルを利用した適正な自動車利用率の検討、一方通行制御の最適配置などの研究を展開している。さらに、避難場所としての機能も考慮した公共施設の集約化の評価や、昭和8年三陸津波後の海岸堤防計画と集落・道路の関係性に関する歴史研究も提示している。以上のように津波被災を最小化するための施設配置計画・道路構成等を評価する研究を多面的に展開しており、復興デザイン研究に大きく貢献していると評価された。

中野元太(京都大学)

「学習者の主体的態度獲得に向けた防災教育アクションリサーチ」

【受賞理由】ネパールやメキシコをフィールドに防災教育に関わるアクションリサーチを展開している。具体的には、津波避難訓練と津波シミュレーションを同時に行う動画を開発し、避難訓練計画の策定過程における専門家と非専門家の間での合意形成促進を図っている。また、指導者と学習者間のアプローチを分析・考察し、学習者が主体的な態度を獲得するための長期的なアプローチの重要性を指摘し、ネパール等で実践している。以上のように、防災教育に関わる実践的な研究および理論化を通じて、国際的な貢献を果たしており、優秀研究賞にふさわしいと評価された。

中野卓(建築研究所)

「都市づくりにおける水害実績及び洪水浸水想定を用いた水害リスクの評価に関する研究」

【受賞理由】2019年から2022年に起きた水害対策の変化を踏まえて、都市の水害対策の現状評価と、対策実施の拡大に向けた論点整理と、水害対策推進上の課題を指摘し、今後の水害対策拡大に向けた有用な知見を提供しており、研究実務的に有用な研究であり、行政的な価値も高いと評価された。また、水害区域図(実績図)をもとに、浸水と都市計画上の位置付けや地形的特性等の関係の傾向も明らかにしており、洪水浸水想定区域と都市計画上の位置付けとの関係、国勢調査を活用した災害リスク分析なども丁寧に行っており、水害リスクと都市計画に関する重要な知見を蓄積していると評価された。

野口雄太(福岡大学)

「熊本地震後の農村地域における空間的資源のあり方に関する研究と実践的研究活動」

【受賞理由】熊本地震で最も被害の大きかった地域のひとつである西原村を対象として、指定避難所と非指定避難所が農村地域の復興過程において相互に重要な役割を果たしうることを明らかにしている。さらに、農村地域の防災計画における非指定避難所の位置づけを再考する必要性も指摘しており、農村地域の避難所のあり方を考える上で有用な知見を与えている。実態調査がますます困難になっている避難所の計画に関わる貴重な研究でもあり、今後の農村地域における避難所のあり方について、実態調査にもとづいた実践的で有用な知見を提供している点が高く評価された。

奨励研究賞

佐藤凌真(豊橋技術科学大学)

「民間賃貸住宅所有者にみる応急借上げ住宅の提供意向に関する研究」

【受賞理由】大災害後の応急借り上げ住宅の適切な供給を目指して、正確な需給推計のための所有者意向の把握と、住宅セーフティネット構築のための制度外システムの考慮という問題意識から、卒業研究では、民間賃貸住宅所有者の応急借上げ住宅の提供意向に関する研究を実施し、修士研究においては、それに加えて校区自治会と協力して住民の仮住まい選択意向の把握に努めており、大規模災害時における広域連携の在り方の構築を目指した研究を継続している。調査の困難性からあまり研究蓄積がない分野において、応急借り上げ仮設の供給側の諸課題を明らかにした研究として高く評価された。