復興デザイン会議では、第5回復興デザイン会議記念講演会を開催しました。復興デザイン会議記念講演会では、U30復興デザインコンペの解題として、人口減少が進むさまざまな地域と都市で、新たな空間づくりの実践と理論化に挑戦する乾久美子と羽藤英二が討論しました。また昨年度の復興政策・計画・設計賞の受賞者による講演を行いました。
●プログラム
(1)対談 コンペ解題:「孤立する都市」 17:00〜17:50
乾久美子 ✕ 羽藤 英二
進行:中尾俊介(東京大学)
動画はこちら。
解題概要:
2024年のU30復興デザインコンペのテーマは「孤立する都市」となっている。能登半島地震を受けて、災害時の孤立や自立の重要性が浮き彫りになった。過去のコンペでは「日常と災害の関係」や「被災地の当事者性」がテーマとされていたが、今回は孤立を受け入れながら生きていく方法や、オフグリッドでの自立的な地域社会のあり方も検討課題となるだろう。
孤立という言葉には、否定的な意味合いもあるが、同時に自立の可能性を考えうる。山本理顕氏の地域社会権構想のように、経済的に自立したコミュニティを作ることも考えられる。また、災害により伝統的な地域社会が失われた後に、新しいコミュニティが地域で生まれる可能性もある。孤立は単に切り離されるだけでなく、次のステップに向かう契機ともなり得る。
被災して孤立した人々の人権保障は重要な課題となっている。スフィア基準のように、避難所でのケアの質が問われている。ケアと管理は切り離して考える必要があり、適切な依存関係を構築することが求められる。ケアの主体と客体は時間とともに入れ替わる可能性もある。復興デザインの提案では、人権を尊重しながら、適切なケアのあり方を提案することが期待されている。
「孤立する都市」に対するデザイン提案として、新しいコミュニティ形成の可能性がある。エネルギーやモビリティを通じて、分断された集落を結びつけることもできうる。また、時間の経過に応じてケアのあり方を変化させる必要がある。主体と客体の入れ替わりにも対応できるデザインが求められるだろう。人と人との関係性を実感できる空間デザインや、自己を更新できる学びの場の提案もありえるのではないか。
(2)「U30復興デザインコンペ2024」概要説明 17:50〜18:10
概要説明:中尾俊介(東京大学)
(3)記念講演 18:20〜19:20
進行:小野悠(豊橋技術科学大学)
復興計画賞:野口 福太郎(株式会社小高ワーカーズベース)
「小高パイオニアヴィレッジ」
講演概要:
福島県南相馬市の小高パイオニアビレッジの設立経緯と活動内容について、説明いただいた。小高パイオニアビレッジは、東日本大震災と福島第一原子力発電所事故の被災地である小高において、地域の復興と持続可能な発展を目指す拠点施設となっている。地域に根ざした多様な事業を生み出すことで、大企業に依存しない自立した地域社会を作ろうと試みている。既存の価値観に捉われず、新しいビジネスモデルを生み出す起業家を呼び込み、地域の課題解決に取り組んでいる。
小高パイオニアビレッジは、宿泊機能とコワーキングスペースを備え、これまでに50社以上の企業が利用している。既存の価値観に捉われない新しいビジネスモデルを生み出す起業家が集まっている。例えば、クラフト酒の醸造、馬を活用した企業研修など、従来の発想を覆す試みが行われている。こうした取り組みは、地域の新しい可能性を切り開いている。特に、大企業に依存しない自立した地域社会の実現を目指している。1つの大企業に頼るよりも、数多くの中小企業が活動する方が大企業の撤退などの影響を受けにくく、持続可能性が高いと考えられて、取り組んでいる。また、多様な働き方や生き方のロールモデルが生まれることで、人々を惹きつける地域になろうとしている。
復興設計賞:米谷 量平(一般社団法人葛尾むらづくり公社)
「葛尾村復興交流館あぜりあ」
講演概要:
葛尾村は福島県の中通りと浜通りの中間に位置する山間の小さな村である。江戸時代は三つ相馬藩と富原藩の中間に位置し、1923年に独立した。中心部には役場や商業施設が集まっており、その他は主に農業や畜産業が営まれていた。
東日本大震災後、葛尾村は全村避難を余儀なくされたが、仮設住宅に入居しながら復興計画の準備を進めた。2012年に最上位計画である「葛尾村復興計画」を、2014年に「葛尾再生戦略プラン」を策定した。このプランに復興交流館「あぜりあ」の建設が盛り込まれた。避難指示解除後は、インフラ整備、公共交通、買い物環境、医療、雇用確保など、段階的に復興を進めている。
「あぜりあ」は、葛尾村の復興のシンボルとなる拠点施設として、2017年5月に着工し、2018年4月に完成した。村民や有識者とのワークショップを重ね、フレキシブルな空間となるよう設計された。会議、イベント、物販、移住相談など、多目的に利用できる施設となっている。2022年6月にはリニューアルオープンし、今後の復興に合わせて施設の使われ方を変えていく予定となっている。
復興を進める中で、公共施設の適切な管理運営や地域コミュニティの維持が課題となり、2018年3月に一般社団法人葛尾村作り公社が設立された。村民主体の村作りを目指し、あぜりあの管理運営や各種事業を行っている。
避難指示解除後の2017年は107名の住民しかいませんでしたが、徐々に帰還者と移住者が増え、2024年4月現在で463名になった。移住者が全体の3分の1を占めるようになり、ニーズも変化している。産業の再生も進み、農業や畜産業に加え、企業誘致や新規創業も行われている。
葛尾村では、経済的自立を目指し、日本全国や世界から支えられる村を実現したいと考えている。村民一人ひとりが学び合い、ともに成長できる機運を高めていきたい。原発事故で住民がゼロになった村を、一人ひとりの決断の積み重ねで、復興を進めてきた。今後も「次の世代により良い村を残す」ことを目標に、あぜりあを中心とした村作りを続けていきたい。