第三回復興研究論文賞 受賞者

第三回復興国内外の復興に取り組んでいる個人、自薦・他薦合わせ26 名の応募者に対して、彼らの主要論文・関連論文を推薦理由も参照し、審査員で評点付け、審査委員会にて受賞者を決定しました。

最優秀論文賞

小野田 泰明(東北大学)

復興計画を実装するための事業運営・スキームのあり方に関する研究

【講評】東日本大震災から10年を迎え、都市計画と建築計画の成果について定量的な評価が求められる中で、復興事業に着目して、研究者自身が関わったさまざまなプロジェクトも含めて一旦俯瞰的に整理し、財政規模や派遣職員比率といったさまざまな要因を拾い上げ、自治体のプロジェクトを見つめなそうとする研究は、復興の外形や事業制度とその成果に目を向ける従前の研究とは異なっており、被災現場でのさまざまな実践的活動を踏まえた当該研究者にしかできない組織の組成に着目するという独自の研究手法に支えられている。特に住環境復興担当組織の分析では、動的な組織改変の枠組みにまで踏み込むと同時に、労力のかかる分析を複数の自治体で網羅的に実施、復興規模の拡大が事業組織の複雑化を誘引するとの知見を得ている。こうした卓越した分析結果は、被災地自治体に任される復興組織のありかたにも一石を投じる内容であり、今後の復興デザインの実践とつなげる復興研究の大きなマイルストーンと高く評価したい。

目黒 公郎(東京大学)

現場での社会実装による地域の防災課題の解決方策に関する総合的研究

【講評】ハードとソフト、構造物の破壊解析研究から防災減災の制度設計研究まで、基礎的研究蓄積をもとに、災害情報アーカイブと情報提供や配信、教育まで復興デザインの一丁目一番地となる地域での実践的活動を、社会制度として定着させるために尽力していることを高く評価した。災害のメカニズムは複合的で、地域によってさまざまであるからこそ、こうした継続的な学術への注力がない限り、理解の更新は難しい。さまざまな視点で研究に取り組んでおり、復興デザイン研究に関わる全ての人の模範となる研究に誠実に取り組んでいるため、賞に相応しいと判断した。

優秀論文賞

荒木 笙子(宇都宮大学)

津波復興事業が被災住民の居住地選択に与えた影響に関する研究

【講評】本研究は、石巻市雄勝地区における仮設及び本設の被災者の居住地選択状況及び満足度を調査し、仮設期から本設期まで地区外に移転していた実態を明らかにするとともに、身近な住環境をはじめとした地区内再建地・移転地のそれぞれの特長をもとに一定の満足度がそれぞれの居住地において得られている実態を明らかにした。本研究結果は、被災後の仮設・本設再建地を決定する際の有用な知見となっており、賞にふさわしいと判断した。

井本 佐保里(日本大学)

国内外の被災地における居住者や施設の移動、その選択要因に関する研究

【講評】難民キャンプなど、途上国における被災(地震、紛争)後の被災者自らによる居住環境整備についてのフィールドワークを通して、インフォーマルな復旧・復興過程についての解明を図っている。また、東日本大震災や熊本地震、伊豆大島土砂災害等を対象として、被災者による再建行動の意思決定プロセスの理解、仮設期における支援の在り方の検討を試みており、様々な事例を通じた、継続的研究を通じ、被災後の住まいの再建に向けた計画論・支援政策の有り方の検討を試みているため、賞に相応しいと判断した。

浦田 淳司(東京大学)

交通工学的アプローチをベースとした災害時の避難行動に関する研究

【講評】災害時の避難行動やその制御についての分析手法を開発し、その実証分析を進めている。平常時の交通行動と比較して、避難行動のモデル化に関する理論的研究の蓄積は十分でないところ、避難時における他者との相互作用・動学的なメカニズムといった一般的な行動規範の解明に成功している。これは、個人の率先的な避難が他者の避難に及ぼす影響や、共助による要支援者への避難支援策の評価につながる成果であり、優秀賞にふさわしいと判断される。

奨励論文賞

小関 玲奈(東京大学)

災害常襲地域の都市形成過程と復興期の人口流動メカニズムの解明

【講評】卒業研究では、松江城下町を対象に近代化と災害が与えたマクロな都市構造変化がミクロな地割形態の変容過程に与えた影響を地割分析によって明らかにしている。さらに修士研究では、災害後の人口移動予測のための被災者の動的な意思決定を記述する数理モデルの構築に着手している。これらの成果はすでに審査付き学術論文として刊行済もしくは掲載決定となっており(都市計画論文集,Vol.55.刊行済;都市計画論文集.Vol.56,掲載決定)さらに、日本建築学会「災害からの住まいの復興に関する共有知構築[若手奨励]特別研究委員会」においても、修士論文の内容を中心に寄稿するなど、学部・修士課程を通じて復興研究とその実践に精力的に取り組んでいる。以上より、奨励論文賞に相応しいと判断した。

曽我部 哲人(京都大学)

自然災害が地域の人口変動に及ぼす影響の評価に関する研究 

【講評】人口変動要因について、長期的な人口変動のトレンドと災害が社会に与える質的なインパクトまでを、全国スケールと阪神淡路や新潟中越地震などのローカルスケールで評価分析しており、さまざまな災害復興の現場でもっとも基本となる人口変動に与える様々な影響を多面的に捉えようとしている点は卓越している。分析方法は比較的単純なクラスター分析を基本としながらも、さまざまな変数を網羅的に処置することで、災害復興と地域定住の関係を統計的な方法に基づいて明らかにしようとしており、復興型人口動態や、都心回帰型人口動態といった動態パターンの特徴づけと大規模被害率と高層マンション復興などとの関係分析の成果は、全国スケールの人口動態分析結果とあわせて、復興計画における人口動態の一般化に大きく迫るものである。複合化し多発するさまざまな災害に対する復興デザインにおいて、人口流動とその動態の予測は必須であり、今後の研究のさらなる深度化が期待できることから、論文奨励賞に相応しいと判断した。