復興デザイン会議 復興研究座談会 2021

第三回復興研究論文賞の審査にあわせて、これまでの復興研究、と今後の復興研究や研究者への期待について、論文賞審査委員会で座談会を開催しました。

開催日 :2021年10月19日(火)@オンライン

参加者:原田昇(審査委員長・中央大学)、円山琢也(副審査委員長・熊本大学)、羽藤英二(審査委員・東京大学)、本田利器(審査委員・東京大学)、萩原拓也(事務局・東京大学※記録)

コーディネート:益子智之(事務局・早稲田大学)

益子:11月に復興デザイン会議全国大会が熊本で開催されます。熊本大学の円山副委員長から口火を切っていただきたいのですが、第3回復興研究論文賞の審査について、またこれまでの3年間の論文賞の蓄積を通してお感じになっていることをお聞かせください。

円山:審査会を通じて大変勉強になりました。分野横断型、地域を横断した研究が大切だと改めて感じています。今回の審査と関係はありませんが、最近神戸大学の近藤先生及び近藤研修士の学生、建築研究所の米野先生と共同研究をする機会があり、熊本地震の建設型仮設とみなし仮設の居住者、東日本大震災の比較を行いました。それぞれが進めていたデータを持ち寄っての比較研究になります。データが貴重なので、比較するだけでも興味深く、異なる視点での指摘で分析が深まったこともありました。こうした分野横断、地域横断による研究は今後も大切と思います。オンライン環境が整っているので、よりやりやすくなっていくと思います。

円山副委員長(熊本大学)

益子:分野横断、あるいは、災害間の比較も今後必要ということが改めて認識されたと思います。続いて本田先生、いかがでしょうか。現在の復興研究の潮流と注目する研究テーマ・手法などについてもお聞かせください。

本田:土木分野は復興に対するアプローチが違って、防災に関心がある研究が多いと思います。ですが、復興研究の趣旨は防災を考える段階で、復興を考えるということ、そのための研究・手法を展開することが重要だと思います。その点は研究としては難しくて、今回受賞された目黒先生はそうした点も視野にいれて活動しているのが評価されたと思いますし、よい形を示してくださっていると思います。しかし、後継が難しいのは確かで、そのあたりをどうするかは土木分野としては難しく思います。新しい分野としては重要なので、復興にも結びつけるようにしたいと思います。今後注目する方法論という観点で見ると、手法としても未確立の分野ですので、挑戦的な人を応援する雰囲気を作る必要があるのではないかと思います。

益子:私も同じ世代の若手や中堅の論文を読んでいますが、博士論文等で検討していた方法論に継続的に取り組む必要があると感じました。

本田:テクニカルに新しいものを導入する、というアプローチをとりがちですが、先にニーズがあることが大切です。土木としてどのように問題を設定して、それに対してどのような方法を導入するかが大切ですが、難しいので挑戦してほしいと思います。

本田委員(東京大学)

益子:本田先生から指摘のあった後継者不足、若手の育成という点も含めて、今回の審査の印象を、羽藤先生からお願いいたします。

羽藤:今回は傾向が変わってきたように感じています。初回や2回目は東日本大震災への意識が強く、乾先生の原発と都市計画研究など、東日本大震災復興に対する問題意識を中心にした研究成果が多かったと思います。今年受賞された小野田先生は、もちろん東日本を中心に実践から研究までやられていますが、共同研究者との取り組みの中で、ハリケーン・カトリーナや、途上国の問題、小野田先生自身の被災地での活動に裏打ちされた次の災害復興に向けた横展開を考えた分厚い研究成果が素晴らしいと感じました。また、目黒先生は復興のハード事業からオペレーションまで防災・復興をトータルで研究しています.現場から数値を積み上げ、説得力がある復興制度や防災の実践への展開を継続されており卓越した取り組みといっていいでしょう。復興デザインの分野でこれまで表彰されたものとは違うアプローチで研究を着実に積み上げ、それを実社会で展開されている先生方の心強さを感じました。一方で、若い世代・中堅世代ですが、例えば井本先生や荒木先生の研究では、複眼的な捉え方が目につきました。ランドスケープ分野の荒木先生の試みは石巻市雄勝に濃密に入り込みながらも、石巻や釜石など自分のフィールドの外に目を広げた研究をしているし、井本先生も途上国の問題に足場を置きながら、熊本や福島でも研究に取り組んでいます。若手が現場を複数持って、継続的に復興研究に取り組むところから今までとは異なる復興デザインのあり方が見えてくるようにも感じました。また、この世代は教育についても熱心で、学生さんと一緒に情熱のある活動もされています.研究と実践を行き来しながら、楽しさも垣間見える論文を評価できたのではないでしょうか。奨励賞では理論的な研究が目につきました。修士・博士課程で今回受賞されたお二人とも建築と社会基盤と都市計画分野において被災地の人口動態研究に関するものです.二人共、復興現場で求められている人口移動やそのメカニズムに着目した研究で、復興デザインの理論化は誰しも目指していると思いますが、そこに学生が分野を超えて、数理的な分析手法に臆することなく新たな手法論の構築を試みているところに今後の復興デザイン研究の大きな可能性を感じました。またそれが上の世代を突き上げる、地域の人口減少ともつながる土木・建築・都市計画の本質的なテーマに対して、中堅・若手から生まれる新しい方法論や理論化が力を持ちうるという可能性を感じられ、今回の審査は特に充実していたと思います。

益子:私も、同世代の研究者が複眼的なアプローチで、異なるフィールドでどのように研究を進めているのか、大変気になります。

羽藤:面白いですよね。異なる分野だけれど問題意識は共通している。現場の実践と研究でみんな悩んでいると思いますが、それぞれ工夫をしながらやっている。それを上の世代の研究者はさらに復興制度の構築に向けて社会的な動きまで拡張しようとしている、復興デザインの研究者像が若手から中堅、泰斗の方まで見えつつあるように思うので、横と縦の情報交換ができそうですね。

羽藤委員(東京大学)

益子:複数の研究アプローチや、理論と実践の往復ということも含め、今回の審査について、原田委員長いかがでしょうか。

原田:今年度の審査では、復興デザインへの貢献が審査の資料だけではわかりませんが、日頃の活動も含めて評価・議論となっていました。今後の研究論文賞の評価にあたっては、複合的・複眼的な研究をしているか、国際的な業績についても、重要な観点として見ていきたいと思います。研究の継続性も重要だと思います。

羽藤:「継続」という点は、復興研究をすすめる中で、皆さん悩んでいると思います。継続して現地に入ることで初めて見えてくることはある.東日本大震災だってこれからの10年継続することで初めて見えてくるものもあると思います。これまで短期的な評価尺度では見えてこなかったものが、今回の審査では、現場で継続している研究の凄みが浮かび上がるような成果が見られたと思います。

原田:若手や学生の研究については、研究室で継続してやっている対象・テーマのか、独自に切り開いているテーマなのかという観点もあり、もちろん研究室でやっているテーマを継続しているのも重要ですが、独自に新しいことをやっている方は高く評価したいとは思っています。例えば、博士論文でやっていたことに追加で新しいところに拡張している人などは評価したいと思います。

原田委員長(中央大学)

益子:継続的に関わること、発災から5年、10年、20年という異なる段階での評価が重要になりますし、その時だから評価できることもあると思います。時間が経過するにつれて、評価のために異なるアプローチが必要かと思います。復興デザイン研究を継続的に取り組む際の難しさ、あるいは面白さについてどのようにお感じでしょうか。

円山:現在進行系の事業は論文にしにくいですよね。いま進んでいることに評論家的に批判するのは簡単だけれども、無責任だし、そんな時間があるならば解決のためにできることをやるべきだと思います。ですがそこに重要なことが隠されていて、現場にいる研究者がきちんと記録はとっておき、5年後10年後に、今後の改善につながる形式で公表することは大切と思います。自分の話ばかりで恐縮ですが、熊本地震の現場では学生と一緒に関わっているので、正直、学生でも論文にしやすいテーマを扱っています。ただ、本当に重要なのはそこではないと学生とも議論しています。論文にしにくい内容もまとめて、次の災害につなげることを研究者のライフワークのひとつにできればと考えています。

益子:萩原先生、継続的に研究を行うことについて、思うことがあれば、若手中堅としてどうでしょうか。

萩原:私も継続的に研究に取り組むことは難しいと悩んでいます。私は岩手の漁村研究をしていますが、今は、モチーフを漁村としながら、別の対象地に変えていく、広げていくという形を模索しています。平時のまちづくりで得られた知見を東日本の被災地に返していくこともあり得ると思っています。どういった切り口で復興研究を継続していけるのかは、時々の地域との関係にもよると思いますが、地域との関係を継続させながら、別のフィールドやテーマに移りながら、相対化していくことをやっていきたいと思っています。

益子:今回の復興研究論文賞では、小野田先生や井本先生が、国際的な研究活動をされている点で、評価されていたかと思います。私も若手研究者と海外の事例研究をどう扱うかべきか、という点で議論することがあります。例えば、国内外を分ける必要はないのではないか、という話をされる方もいらっしゃいます。本田先生からこの点についてご意見いただけますでしょうか。

本田:私は、海外の事例を対象とする場合でも基本的には同じスタンスでいいと思っていますが、何がその地で問題になっているかは、深刻さ、社会的情勢や技術的側面など、事例によって違うと思うので、その解像度にあわせて手法やイシューをきちんと設定する必要があると思います。井本先生のアフリカ研究は非常に面白いので、あのような研究を海外に発信することは有意義だと思います。海外に発信するために、どういう方法論が必要なのか。東日本大震災や阪神大震災で、日本の研究者で培った技術体系を、海外の事例に適用して発信するのは説得力があると思うのですが、実際には容易ではありません。高度な手法を使う正統派の研究のほうがやりやすい。それを否定するものではないですが、本当に日本が、東日本大震災を経て得たものが発信できているのかは、考える余地があると思います。

益子:奨励論文賞の対象となる学生からも、英語での発信が徐々に出てきているので、ぜひ学生のみなさんもチャレンジしていただきたいと思います。最後に、今回の復興デザイン会議全国大会のテーマが「複合災害と新たな都市像」です。題目に対して、研究にどう取り組むべきか、ご意見お聞きしたいと思います。

コーディネーターの益子氏(早稲田大学)

羽藤:長い時間を見る研究、例えば津波や常襲性を見るとすれば、昭和三陸津波と今次津波で対応は違う.その間に、同じ都市や地域の中で、他にもさまざまな災害がある.復興の過程で複合的に重なり合いながら地域が継承されてきた.複合災害というと、同時に起こる災害を想定しがちです.でもさまざまな災害に対して長期に渡って行われてきた復興が、地域の体質を改善してきたという見方もできますよね。ですから、複合災害という捉え方もまた、同じ地域に入り続けて初めて見えてくる、今までにはない違った捉え方が手に入る、平常時の都市計画という考え方を更新するような、複合的な災害への対応が都市計画のデフォルトになっていく必要があると感じています。さまざまな時代で、都市に災害が襲ってくる中での都市計画、地域計画、マネジメントというテーマに還元することが重要な視点としてあるのではないでしょうか。

原田:長期化ではないですが、COVID-19への対応にあたって、ロックダウンをする場合と、それができない日本の状況が違うことは気になっています。災害時の計画で、どの程度強制的なことができるのかは非常に気になるところです。帰宅困難の問題も、皆の行動がコントロールできるところでは可能かもしれないですが、我が国でできるのか。気候変動によって災害が複合化するのは間違いないですが、ヨーロッパなど他国は人口が増えているなかで、CO2の排出が増えていることに対して、非常に大胆なことをしないといけないという強い危機感を持っているのに対して、我が国は人口減少のなかにあって、そのあたりに取組みの違いが出ているような気がします。そのような状況で、我が国が気候変動を減らす方向に進む方向にうまく進むのか、少し心配に思っています。

羽藤:COVID-19対応が各国・各都市で違うということもありますし、フィジカルな災害やそれへの対応について、どこから手をつけるべきか、あるいは複合性のより良い理解、それに基づく政策的な提言まで、我々は十分には立ち向かえていない。政治的な大きな対応とまちづくりの合意がうまく行かないことと通底しています.人間社会における複合的問題は、復興デザインが取り組むべきですが、研究的アンチテーゼはあったとしても、いまだこう取り組むべきだという研究的合意が得られていないのではないでしょうか.

原田:生命に関わることに関連して、死亡事故ゼロ、重傷事故ゼロという問題は欧州の国々では30年くらい前から取り組まれていて、そのためには道路の構造も変えるし、さまざまなことを積極的にやっていますが、我が国にはそういう発想がないんだよね。本当に生命が大事だ、みたいな思想については復興デザインとしては非常に重要だと思っています。

羽藤:コロナの対応で野戦病院化してもいいから患者を運び込むという対応を取るのか、我が国のように自宅で待機してくださいという対応なのか。そういった状況に置かれている人に対して、我々がどういう態度、あるいは倫理を持ち得るのか、或いはその表明そのものも、海外とは大きく異なりました.オペレーションとして医療が混乱しないことは重要ですが、社会において人間がどう扱われることを望んでいるのかという観点からおかしいような気もする.でもそういったとき、地域の中で医療拠点をどう整備しておくか、復興デザインの中で、地続きな計画論として公平な社会、公正な社会を議論するべきだと思います。そういったあるべき像の議論ができていない。それが、複合災害が一旦おきてしまえば、計画災害という言葉にあるように、いっそう場当たり的になってしまって、負担が偏在化してしまう。私たちの社会と復興のありようを考える上でも、国際研究を接続していくための場作りが重要ではないでしょうか。外からの目線がないとできないから、復興デザイン研究を国際的に展開することには大きな意味があるのだと思います。

益子:全国大会の開催地である熊本では、地震のみならず水害も発生しており、まさに複合災害に直面していると思います。円山先生、いかがでしょうか。

円山:あるべき復興の姿を今の制度を前提とせずに考えることは大切だと思っています。避難所から、プレハブ仮設から災害公営というのが日本の流れの一つですが、プレハブ仮設を作るに一戸何百万円かけ、災害公営住宅についても何千万かける。そういった公的資金の使い方が本当にベストなのかという視点で見ていかないと行けないと思います。現場の行政は現行の制度を前提とするしかないのですが、国際的にみてよりよい方法はないかなどを考えるべきだと思います。復興の支援制度もパッチワーク的に修正を繰り返しているところがあります。これは防災プロパーの国家公務員がいないことも一因なのかもしれません。もちろん研究者として現状の制度を批判するだけではなく,より創造的に提案することが求められると理解しています。熊本は複合災害からの復興の途上にあって、難しい判断を迫られていますが、全国大会ではそんな話が議論できればと思います。

羽藤:戦前までの豪雨災害では、橋梁が流される.だから10年20年でかけかえるのが当たり前だった。円山先生の話とは逆かもしれませんが、災害の度に、建築や橋などは建て直す、架け替える、そういうことが、頻度の高い豪雨災害に対するやり方だった.ところが戦後から近年になるとインフラの維持管理によってできるだけ長く使うこと、そのためのインフラの制御・マネジメントの徹底が謳われるようになってきています。これは住替えだとか、立地適正化も含めて、災害リスクの近くに住んでいたということからの地域構造の転換を謳っているようにも思いますが、でも、それが地域にとっての合理的なのか、東日本大震災の時に議論したことではありますが、リスクはあるが、土地をこう使っていきたいということを地域ごとに考えた対応になっているのかは、もっと深い議論が必要だと思います。霞堤や田んぼダムなどの地先管理、古いインフラも使いながら対応していく地域マネジメントのほうが、人口減少下にある集落では現実的ではないでしょうか。一方でバイデン大統領の言うようなインフラ法に基づく新しい国土像もあると思います。いずれにせよ、私たちが、複合災害に対してどういった都市像を提示するが、地域像を描くかを、熊本で議論できたらと思います。

原田:あとは熊本で議論しましょう!ご苦労さまでした。