第4回復興デザイン会議記念講演会

2023年7月28日(金)18:30より、第4回復興デザイン会議記念講演会を開催し、後半は昨年度の復興デザイン研究論文賞・復興設計賞の受賞者による講演を行いました。

進行:小野悠(豊橋技術科学大学)、萩原拓也(名城大学)

復興計画賞: 阿部俊彦(立命館大学/LLC 住まい・まちづくりデザインワークス)

「気仙沼内湾ウォーターフロント・「迎」ムカエル・「創」ウマレル・「結」ユワエル・「拓」ヒラケル」

内湾地区は気仙沼の一番の中心市街地だが、津波による被害が比較的少なかったため、安全性確保のため防潮堤建設を求める県の意向に対し、住民からは防潮堤の設置によって海と町が断絶されることへの反対があった。そこで、まちづくり協議会を設置し、防災も重要だが、日常生活や観光まちづくりと両立可能な復興はできないかと検討してきた。

何度も協議会で提言書をつくっては提案をし、また修正して、とやってきた。最初に行政から示された資料では町のイメージ、ビジョンが全く見えないということで、細かい事項を決めていきながら、どんな町にしていこうか、ウォーターフロントだけではなく、陸側の商店街も一緒に考えてきた。

最終的に、魚町側の防潮堤では見た目の高さを下げるため陸側の地盤を嵩上げし、防潮堤の余裕高の1m分はフラップゲート式で津波が来た時だけ上がるように整備し、歩道から海が見えるような関係を実現できた。
南町側は県の工事として堤防をつくって岸壁にステップガーデンを整備し、防潮堤より町側は、まちづくり会社と気仙沼市が建築を2階部分が防潮堤と同じレベルになるように建てることで町と海をつなげた。最大限防潮堤が圧迫感のないように協議会で議論、皆さんが納得した形で整備できた。

あくまでも避難施設として整備されたが、普段は色々な方が遊び場や憩いの場として使っており、2階のデッキは浸水時には避難場所に、普段は内湾全体を回遊できるよう設計した。右側のまちづくり会社で作った民間施設では、ここを中心に町が復活するため、地元の海鮮を使った事業者や、観光プログラムと連携した地元の事業者に入ってもらった。左側は気仙沼市の公共施設で、運動場、移住の相談の場所、ラウンジ、町大学、コミュニティFMの拠点、スタジオ、チャレンジショップの場所など、若者が集まってくる場所になった。

復興まちづくりは協議会が担ってきたが、今はその次の世代がさまざまな社会実験を展開し、より楽しい場としての活用を模索している。

復興研究論文賞 優秀論文賞:中居 楓子(名古屋工業大学)

「津波リスクと平常時の利便性のトレードオフに関する研究」

復興計画では、防災性だけでなく日常生活の利便性とのバランスが重要であるといえるが、このトレードオフが明示的に意識されたケースは多くない。多目的最適化の枠組みを使って、津波リスクの低減と平常時の利便性を考慮した最適居住地配置モデルを構築し、トレードオフ構造を分析する手法を提案した。また、これにより、都市の防災性を重視した施策によって、他の目的がどの程度犠牲になるか、他の目的への影響を抑えた上で、防災性を高める施策があるかといった、都市計画上の問題に答えられるような分析枠組みを提案した。

モデル概要
津波リスク、インフラ維持管理費、通勤時間の各コストの総和が最小となるよう、3つの制御変数:メッシュ毎の土地利用、人口、通勤トリップを計画する。標準化した3つの目的関数に重みの和が1となるような重みをかけて、この重みの配分の調整によって、都市計画においてどの目的を重視するかを表現する。

高知県黒潮町への適用
モデルを南海トラフ地震地域である黒潮町に適用し、重みの感度分析によりトレードオフ構造を分析した。津波リスクの重みを動かした時の値の変化を例に挙げると、津波を重視すればするほど、維持管理費と通勤時間の日常生活に関わる費用が増え、防災性と日常生活費用にトレードオフ関係が生じた。目的関数の総和に着目すると、津波の重みを増やすと途中まではその値が低下するものの、日常生活費用の増加が大きくなるにしたがい増加に転じた。総和が最小となるのは津波の重みが0.3のときであった。
地図上で結果を見ると、対象地域では津波を重視し過ぎると通勤の費用が急激に悪化し、日常生活の利便性が大きく低下し、山間部に人が分散する。一方で、維持管理費または通勤時間を重視すると沿岸部に人が集中するという特性が分かった。

モデルの意義として、各目的の重要視度合いに応じた町の姿を描けることが挙げられる。また、防災を重視するか日常の利便性を重視するかは価値観によって異なるが、重みの組み合わせが変わっても同程度の目的を達成するような領域は、互いに譲歩可能な領域とも言え、対立する目的の中で落としどころを見つけられる可能性があると考えられる。

復興研究論文賞 最優秀論文賞:田中 正人(追手門学院大学)

「減災・復興政策による社会的不平等の拡大抑止に向けた一連の研究」

災害サイクルという考え方がある。災害が発生すると、復旧復興が始まりやがて平穏な時期を迎えるが、再びやってくる災害への備えとして、減災・事前復興と呼ばれる過程に入り、また災害に見舞われる。これまで私たちは、このサイクルに応じた減災・復興政策を作り出し、改良を重ねてきたはずだが、現在の政策は、それを進めれば進めるほど、社会的な不平等が拡大するようにデザインされているのではないか、という仮説を立てた。

発災時には人的にも物的にも被害が均等に生じることはなく、高齢層や低所得層、女性や有色人種、過密住宅地区、被差別地域、インフォーマルな居住地に被害が集中する。発災時を生き延びても、居住地はニーズによって決まるわけではなく、年齢や世帯構造、経済的な資力によって、選択肢が奪われ、災害リスクの高い地域への残留や、新たに強靱化した地域からの転出を余儀なくされる層が生じている。また、仮設から早々に離脱できる人々と、いつまでも取り残され著しく孤立を深めていく人々に分かれる傾向が見られ、セーフティネットのクオリティを高めていくだけでは、入居者の孤立を防ぎ、暮らしの安定を回復することは難しい。
減災・事前復興のフェーズにおいても、リスクの不均等な分配という形で格差が生じている。南海トラフ地震の被害想定地域では公的施設の高台移転が進むが、住宅に関しても若いファミリー層を中心に移転が進む一方で、自力での避難が難しい人、相互の救援活動ができないような人々が浸水リスクの厳しい沿岸部に取り残されている。
発災時の犠牲の偏りは、必然の結果ではなく、こうした不平等が累積的に拡大した結果といえる。

この不平等の拡大サイクルを駆動するのは、減災・復興政策そのものである。空間を作り変える制度は脆弱な階層を強靭な市街地から追い出し、ハザードを避ける制度は移転困難な世帯を置き去りにし、これらの世帯に対するセーフティネットとして公営住宅が用意される。だが、このニーズは本来、制度による置き去りや追い出しがなければ発生しない。現在の政策は、あらかじめ居住地選択の機会を失う人々の発生を想定し、それをセーフティネットで受け止めるようにデザインされている。いわば、居住者を階層化して不平等化を促進する政策の構造がある。

不平等を拡大しながら回る災害サイクルを止めるためには、現行の減災・復興政策のアレンジではなく、政策の根本的な転換が必要となる。転換の指針となるのは、一人一人の生活構造への理解だと思う。生活構造を被災・移転前後も維持することが、おのずと一人一人の生活再建につながる。生活構造は、生活行動の連続、生活圏域の重複、生活空間の継承によって維持されると考えられる。生活構造を維持しようとする実践は、いろんな被災地から見出すことができる。今後、どのような条件のもとでそれが可能になっていたのか、逆に言えば、どのような場合に維持できない状況に陥ってしまうのかということを理解することが必要ではないかと考える。

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