復興デザイン学2021

講義の概要

  「復興デザイン学」では、「復興デザインスタジオ」と連動しながら復興に関連する講義シリーズを開講しています。

講義の記録
ARCHIVES

パート1:住生活・住環境の再建

第一回:2021年4月5日 April 5th, 2021

「仮設住宅の考え方」大月敏雄(東京大学)

概要
ロンドン大火後の復興計画、1911年吉原大火における復興住宅、関東大震災後のバラック住宅や同潤会による住宅供給、近年の北海道厚真町での地震災害など国内外の事例を参照し、主に住宅・住生活に関する災害復旧・復興の展開について論じ、住宅に加えてまちの復興の重要性を指摘した。

第二回:2021年4月19日 April 19th, 2021

「社会学からの住宅再建調査に取り組んで」西野淑美(東洋大学准教授)

概要
東日本大震災後2012年から現在まで,釜石市のある地区を対象に継続して行ってこられた住宅再建に関する聞き取り調査について,お話しいただいた.

地区は津波で完全に流出した家と被害のなかった家,復興計画における区画整理事業範囲の内と外,と状況が多様であり,同じ地区でも住宅再建方法は多様であった.時間経過とともに変化する住宅再建意向とサイレントマジョリティの声を記述することを目的に,インタビュー形式のパネル調査を元の居住地をベースに毎年繰り返し行ってきた.こうした調査によって住宅再建の多様な実態が明らかになってきたが,それらに対する物理的な説明として,被害状況,区画整理事業の範囲,自力で持家再建を可能にする資源(資金・土地)などがあげられる.それでだけでなく,ライフステージや家族をはじめとする協力関係の有無,地域コミュニティの中での立ち位置なども再建の意思決定に大きな影響を与えてきた.

このように各世帯は必ずしも能動的に意思決定をするのではなく,制度や時間経過等の外側の条件によって形成されてくる.選べる制度と背負える最大限の負担という制約の中で,できるだけ家族の生活圏を変えないような工夫の結果として最終的な住宅再建の方法が決定されてきた,その過程や調整に目を向け,事前復興計画や制度設計に活かしてもらいたい.

第三回:2021年4月26日 April 26th, 2021

「住宅の復興 −東北復興のメカニズム」佃悠(東北大学)

概要
東日本大震災後の災害公営住宅や防災集団移転促進事業などによる住宅復興のプロセス、計画やその後のコミュニティの変化について、さまざまな事例研究を紹介しながら論じた。計画の条件となる住宅再建意向調査における経時的変化、コミュニティ支援型住宅やリビングアクセス型、共助型の災害公営住宅の有効性と課題、建築規制などによるコミュニティの変化への影響等を事例を通じて話があった。計画があるなかで、住民が主体としてどう役割を果たせすべき役割について議論を重ねる必要性などを指摘した。

パート2:モビリティ(移動・避難)

第五回:2021年5月17日 May 17th, 2021

「ハリケーン・カトリーナ災害の復興・減災」近藤民代(神戸大学)

概要

ニューオリンズのハリケーンカトリーナからの復興と東日本大震災の復興を比べながら、復興デザインのあり方を探った。

二つの復興の違いとして、東日本では大規模な土地利用規制を行ったのに対しニューオリンズでは危険区域の設定を行わなかった点、東日本では嵩上げ・集団移転を政府主導で行ったがニューオリンズでは行わなかった点をあげ、それと対応するように、アメリカにおける氾濫元地域公表の難しさ、建物の床上げを促す水害保険制度、移転の選択肢もある行政による住宅保証、政府主導の臨時買取オークションの状況を説明した。

また復興デザインにおける計画的介入のあり方について、空間変容に対応して力をかけるよりむしろ個人や地域のレジリエンス・復元力を育てるような公的関与のあり方を拡充していく必要があると主張した。そして復興のプロセスは、つねに右肩上がりを描き不確実性に対応できなくなるのではなく、居住環境の質が変動する状況でそれが下がったときにしっかりリハビリできる適応力が重要との考えのもと、事前復興は複数のシナリオ思考型の戦略的なアプローチが必要と主張した。

第六回:2021年5月24日 May 24th, 2021

「アイルランド大飢饉における経済・復興の諸問題」勝田俊輔(東京大学)

概要
1840〜50年代にアイルランドにおいて発生したじゃがいもの大凶作にともなう大飢饉からの救済・復興について講義頂いた。従前からの貧困リスクと未知の伝染病が飢饉に影響を与えたこと、行政が市場経済への不介入を決めた一方で、民間団体による寄付・支援が行われていたことが指摘された。また飢饉を通じて、アイルランド型農村社会→イングランド型へと、社会構造の転換が起こったとも指摘できるとのことであった。

第七回:2021年5月31日 May 31th, 2021

「原発被災区域の復興のあり方・復興祈念公園」横張真(東京大学)

概要
福島県の沿岸部地域はかつて炭鉱があり,1960年代初頭に採掘量ピークを迎えたのち,急速に衰退していった.高度経済成長期に高まった電力需要と地域の経済復興との二つを背景に原子力発電所が誘致され,日本の原子力発電の最初期の原発の一つがこの浜通りに立地した.原発は地域のシンボル的な存在となって地域経済を潤したが,3.11の震災後の事故によって周辺地域の全村避難という結果をもたらした.事故後10年を経て次第に線量は下がり避難指示が解除されてきているが,未だに帰還困難区域も残されている.解除された地域でも帰還人口は少なく,帰還された方は高齢者の割合が高い.未だに時が止まったような状況下にある双葉町と浪江町とにまたがる臨海部の地区で,福島県の復興祈念公園を計画が進行しているが,これは陸前高田や石巻のように復興が進んだ地域におけるそれとは状況が大きく異なる.予定地からは福島第一原子力発電所が遠望でき,中間貯蔵施設も近くにあるという厳しい周辺環境に立地する公園を考えるにあたって,命を悼む,事実を伝える,よすがをつなぐ,息吹蘇る,という4つのキーワードをコンセプトとしているが,特に後者2つの意味をこの地域で考えていくのは難しいものがある.帰還者も少なく極端な高齢化が進んでいるこの原発被災地域の復興とは何なのか,誰のための復興なのか,何のための復興なのか,みなさんに当事者として考えてもらいたい.

パート3:都市・地域の計画

第九回:2021年6月14日 June 14th, 2021

あたらしいが懐かしいまちへの再編」江川直樹(関西大学名誉教授)

概要
復興デザイン,事前復興デザインを問わず日常の良好なコミュニティ形成を促す環境形成のデザインとして,「視線のコミュニティ」「ボイドな空間のデザイン」をテーマに講義を行った。住環境をデザインするにあたって、集まって住むカタチの有り様、住宅が立地する場所性を意識する(場所の声を聞く)こと、空間の「あいだ」にできるボイドに社会性を見出し、以下にそれらを配置するかが重要であると指摘した。阪神・淡路大震災からの復興事例として芦屋市若宮地区の震災復興住環境整備を取り上げた。当初、若宮地区では大規模な集合住宅の整備が検討されたが、住民の意見等を踏まえて公共住宅と戸建て混在するまちとして、修復型で環境を再生する手法が取られた。集合住宅の設計にあたっては戸建住宅との調和を意識したボリューム感、アイストップやオープンスペースの配置等に配慮し、まちなみの再生が行われた。

第十回:2020年6月21日 June 21th, 2021

海岸都市のリスクと津波減災まちづくり」佐藤愼司(高知工科大学)

概要

高知の中心市街地のように現代の都市は沿岸部に多くとにかく標高が低いため、レベル1津波よりも小さい津波でも津波が来る前に浸水し地盤が沈下する。数千年単位の時間スケールで見ると海面は±100m変動しており、現在比較的高い時期でありさらに二酸化炭素濃度との関係から見ると今後100年の海面上昇は危険と予測される中、津波対策はどうあるべきか。

日本での津波対策は、レベル1を防ぐ「防災」は海岸法に基づいて国と都道府県が、レベル2の被害を減らす「減災」は災害基本法に基づいて市町村が行う制度設計になっているが、主体の違う対策をつなぐため、市町村が行うレベル2津波の対策に国や県が支援できるようにする法律の整備を勧めている。対策事例として、オレンジゾーンの指定があるが、政治的バリアがあって指定の実現が難航している。現在の防災システムのような考え方ではなく、今までのレベル1津波はたまたま来た特殊事例であったという考えを持ち、また避難は重要であるが、人々の「最期まで逃げないのが得」の考えを変えなければいけないが難しく、避難だけに頼らない津波対策が重要であり、今後、避難しないでいいまちづくりは実現可能なのかを考えたいと主張した。

第十回:2020年6月28日 June 28th, 2021

小規模自治体の復興まちづくり」三宅諭(岩手大学)

概要
東日本大震災で被災した岩手県の小規模自治体の復興まちづくりで支援されたご経験からその実情や課題等についてご講義いただいた。野田村における高台の住宅地計画での検討、被災した低地部に整備する公園における住民参加のあり方等について事例紹介をいただいた。中高生などの若い世代が復興まちづくりに関わる意義と負担等について指摘があった。また山田町の商業地区におけるまちづくりの公共性などに議論が及んだ。

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