第15回復興デザイン研究会の報告

難民と日常

東日本大震災を契機に、これまでの工学的技術を統合して、新たな復興デザイン研究を築くために、復興デザイン研究会を開催しました。
第15回は、ギリシャ(シリア難民)とバングラディシュ(ロヒンギャ)の難民キャンプの実態について、現地で研究・支援活動されている専門家に話題提供いただきました。

開催概要

日時: 2018年6月22日(金)18:00〜20:00
場所: 東京大学・本郷キャンパス・工学部14号館222号室
テーマ:「難民と日常」
1)カクマ研究報告
井本佐保里(建築)・Dastid Ferati( Urban Engineering Department)
2)ケニアの難民キャンプ事情
樋口博昭(ジャパンプラットフォーム)
3)国内避難民の日用生活品と復興デザイン
湖中真哉(静岡県立大学国際関係学部国際関係学科教授)

主催:東京大学復興デザイン研究体

話題提供概要

カクマ研究報告:井本佐保里・Dastid Ferati(東京大学)

カクマキャンプには18 万人もの避難民がいて、その地区は大きく4つに分かれている。時代の経過と共ににキャンプ内の過密化が進んでおり、それに伴い敷地境界線の性分化やフェンスの設置が進んでいる。また土地の売買や家賃収入を得る手法など、近代的な生計の建て方が見られ、一方で牧畜や農業などの生業は見られなかった。都市化により生計のたて方が変化し、遊牧民であった南スーダンの生活文化の消滅が懸念される。また地域として現地住民がキャンプの都市化にどう対処していくのかが課題といえる。

ケニアの難民キャンプ事情 樋口博昭(JPF)

ケニアにはダダーブ難民キャンプ、カクマ、そしてカロベイ居住区というのがあるが、居住区というのはケニア政府の政策が現れている。スーダン難民はウガンダ北部に多かったが、その一部がケニアに流れた。政府はカクマキャンプの人口密度が増してきたので、カロベイ居住区をつくり、地域との関係を作ろうとしている。いま難民キャンプは閉じるまでに7年かかると言われている。ホストコミュニティと難民との関係を考える必要がある。ウガンダではこの考えが進んでいて、1 世帯に50m × 50m の土地(実際には30m × 30m)を与えている。難民キャンプは国の政策によってすごく影響をうける。カクマでは難民の方が地元住民よりもよっぽど良い暮らしをしている。政府が難民キャンプを最貧困地域に建設することで、その地域を底上げするというのが現在のトレンドとなっている。カロベイ居住区にはまずコンゴの人(農耕がうまい)の人を配置したいと考えている。ソマリア人は商売がうまい。南スーダンはこれといった特徴がない。そういった特徴を利用した計画を建てている。

国内避難民の日用生活品と復興デザイン 湖中真哉(静岡県立大学)

ケニア国内では国会議員が票の集計を目的として紛争が連鎖的に発生した。農耕民が暮らすキャンプを調査した時、遊牧民が自発的につくった巨大集落を見に行ったことがある。ここで物質文化の悉皆調査を行った。彼らは家畜にとても高い価値を持っているが、避難民は家畜を放棄して逃げることを余儀なくされる。家畜の乳容器、ロープ、ヘラ、椅子など、民族ごとに異なり、規範がある。貨幣との換算価値で見れば極めて低いが、一定の生計道具としての役割を持っている。これらは最低限のもののセットとして、彼らはそれをもって逃げなければ不幸になるという考え方を持っている。人道支援の領域は無形の知識として保存される。生活物資そのものはいつかなくなってしまうため、再構築できる知識が必要。それを調査して可視化していく必要があるのではないか。我々はこれを内的シェルターと呼ぶ。内的シェルターを可視化することによって、外からの外的シェルターと相互に組み合わせることが必要なのではないか。被災者はすべてを失っている。その中で、自分の身体イメージを取り戻す必要がある。身体と一体化した最小限のもののセットがレジリアンスの起点として果たす役割は小さくない。被災者の身体イメージを核とした復興デザインが必要。身体というものが非常に医学的なものとして考えられているが、居心地のよい空間、ものというのを考え、都市計画まで広げていければ良いのではないか。

SHARE
  • URLをコピーしました!