第1回復興デザイン研究会 開催報告

開催概要

日時:2014年7月17日(木)

話題提供:佐藤 啓輔(復建調査設計株式会社)、吉野 大介(復建調査設計株式会社)

企業ビッグデータを用いた地域間の商取引特性の把握

佐藤啓輔(復建調査設計株式会社)

東日本震災後、地域全体の経済活動に関する継続計画(District Continuity Plan:DCP)の検討必要性が高くなっている。DCP検討にあたり重要な視点のひとつに地域内に立地している企業の取引特性の把握がある。ここでは、この商取引特性を把握するための一つの指標として「地域間代替弾力性」に着目する。地域間代替弾力性は、生産財の価格が1%変化した際の地域間交易需要の変化を示すものであり、弾力性が大きいと同質な財取引(競合財の取引)が行われており、弾力性が小さいと異質な財取引(非競合財の取引)が行われていることになる。つまり、財の同質性が高い場合、生産財の価格変化に対して敏感に取引が見直されやすいことになるため、震災時のように生産コストが増加する場合、被災地の企業の取引が他地域に代替化されやすくなることになる。

このような取引特性の推定のためには、既存研究では地域間産業連関表の整備が前提となっていたため日本ではブロックレベルでの特性把握のみとなっていた。そこで本稿では㈱帝国データバンクが保有する企業間の商取引データ(いわゆる企業ビッグデータ)を活用することで、都道府県レベル、市区レベルの各空間スケールにおいて、この取引特性の把握を行った。例えば、図1に示すように食料品・飼料等製造業のように弾力性の高い産業は、他産業に比べて、どのような空間スケールにおいても同質な財取引(競合財の取引)を行っていることになり、このような産業は、被災時に取引先を見直しやすい傾向にあることが推察される。一方で、本稿では、ある一時点でのデータをもとに推定を行っているが、このような取引の弾力性の把握のためには、震災前後でのパネルデータを用いた推定が望ましい。更に、図1のような産業別、空間スケール別の特性把握のみならず、地域特性の観点からの整理も必要である。今後は、これらの課題について更に詳細な分析を行う予定である。

都市縮退時代に対応した地域公共交通に関する研究

吉野大介(復建調査設計株式会社)

東日本大震災は都市縮退時代の災害として位置づけられる。今後、仮設住宅から高台団地・災害公営住宅への入居が進む中、現在離散的に存在する集落はそれぞれ縮退することになる。一方で、地域公共交通を取り巻く財政状況は引き続き厳しい状況に置かれ、限定的な需要のために莫大な公的財源を費やすことは正当化されず、公共性の枠の中で効率性の追求を図っていく必要性が高い。つまり、市民の移動手段の確保及び外出の促進と公共サービスのスリムアップ化の両立の視点が今後ますます重要になる。これらの背景を踏まえ、現在、我々の研究グループでは以下2つのテーマを据え研究活動を行っている。

1.縮退都市における地域公共交通のサービス設計

オペレーションズリサーチの分野で発展してきた二段階最適化手法を用いて、被災地域の復興事業の進捗に合わせた交通需要分布の変化を踏まえた公共交通のサービス設計に向けた検討を行っている。現在、基本モデルを構築しシンプルネットワークへの適用を行っている段階であるが、基本モデルは都心部への適用を想定したものであること、基幹・フィーダーの分類が考慮されていないこと、施設配置の変化に伴う動的な提案がなされていないことなど、縮退都市に適用する際には解決すべき課題が数多く残されており、今後改良モデルの開発を進めていく。また、被災地域における実ネットワークを用いてルート・便数計画の最適化計算を行い、結果をもとに今後の公共交通再編の方向性について議論を進めていきたい。

2.地域公共交通の運営・ビジネスモデルの提案

現在我々のグループでは岩手県陸前高田市においてデマンド交通実証実験事業(調査・計画・運行)を受託している。公共交通事業を取り巻く財政状況は引き続き厳しい状況に置かれており、今後、国による運行補助が縮小していくことも懸念される中、地域公共交通のビジネススキームの検討を進めるとともに、主要ユーザである高齢者を対象としたサービスの認知やサービスインの抵抗緩和、リピート効果、メンタルアカウンティングの考慮等の需要側の視点を踏まえたサービスの設計、営業活動等を展開していく予定としている。

SHARE
  • URLをコピーしました!