復興デザインスタジオ2021年夏スタジオ「Design for Tokyo’s Vulnerability -江東区事前復興デザイン-」は、2021年7月12日に最終発表会をオンラインで実施しました(豊橋技術科学大学と合同実施)。
講評者
小林 秀樹(元江東区職員)/水谷 晃啓(豊橋技術科学大学 建築設計)/杉木 直(豊橋技術科学大学 交通工学)/小野 悠(豊橋技術科学大学 都市計画)/宮城 俊作(東京大学 ランドスケープデザイン)/横張 真(東京大学 緑地環境計画)/大月 敏雄(東京大学 建築計画)/本田 利器(東京大学 防災工学)/福田 大輔(東京大学 交通工学)他
大島・砂町事前復興計画 -小さなレシピによる回遊性向上とエリアハブの形成-
A班:小島元太朗・耿渼雯(社会基盤)、渡邉大祐・山本廉(都市工)、安藤凜乃・南佑樹(建築)
提案概要
災害リスクとして⾸都直下型地震とそれに伴う市街地⽕災・浸⽔を想定する。現在の⽇本では⼤災害に伴う避難所⽣活の⻑期化や劣悪な⽣活環境が問題となっている。それに加えて東京都においては避難者数に対する避難所数不⾜も合わせて問題となる。これらの問題をエリアとしての避難所を形成することにより解決しようと考えた。対象地は⼤島 4,5 丁⽬及び北砂 3,5,6 丁⽬である。この地域は避難所分布に地域ごとの偏りがあることや、避難所が集中する団地エリア・⽊造密集市街地・河川という性質の異なる空間が存在することが特徴である。この地域において、①団地を中⼼としたエリアハブの形成、②団地にサービス系統・商業系統の機能を挿⼊することによる有事の際の多様な機能を持ったエリアとして広がる避難所の形成、③上の 2 つのコンセプトを達成するための 8つの⼩さな操作の 3 つのコンセプトを提案する。災害に対して強く、なおかつそれぞれの完成度の⾼い空間を損なわずに地域の回遊性が⾼まったまちへとリノベーションしていく。
⼤⽉敏雄 西日本豪雨後に呉市に行って、同じようにスタジオで提案を行ったときに,⽔害で流される前に近くの鉄筋アパートに逃げられる場所を⼩さく分散して,隠れて逃げるみたいな感じなのが⾯⽩いと思いました.その上で⼈が本能的に避難すると⾔う⾏動に適した提案だと思う。今回の提案では、避難空間しか考えないが,そこに⾄るまでの動線やそこで何をするのかを考えてもらうと良いと思いました。また、どこに誰が逃げて,避難しているかという情報共有が重要となってくるので,避難空間の持つスペックを明⽰し,情報供給などの体制も必要と感じました.提案されていたデッキや屋上の広い空間は,エディブルガーデンなど,広い空間に何か機能を付け加えてもいいと思います。
宮城俊作 今回の提案は「レシピ」と⾔う⾔葉ではなく,「ディバイス」と操作だと思いました.その上で、その操作パターンはもっとたくさんあると思う。避難のためだけでなく,⽇常でいかに使われるかが重要なので,⽇常に何が⾏われるのかのプログラムを⼊れる必要がある.たとえば、屋上部分で,誰かが野菜を作っているだとか、ポケットパークで誰かがカフェをやっているるだとか。木造密集地域と団地が隣接していることの可能性,意味などをもう少し考えてもいいと思います。
横張真 全体の印象として、ハード的にはそつなくきれいにまとめられていて、そこは好印象なのですが、⼀⽅で、ソフト的な側⾯、特にどのような主体が、どのような仕組みのもとで、どのように⽴ち回るのかについて、もう⼀歩の提案がほしかったように思います。
更新する空間、継承される中心性(砂町地区)
B班:前田歩美・日高凌(社会基盤)、合田智揮(都市工)、安東慧・佐藤謙太朗(建築)、伊藤斉(新領域)
提案概要
0m地帯かつ木造密集地域である砂町の中心となっている砂町銀座商店街において、点的な建て替え更新の集積により商店街の中に災害拠点を創出し、水害を乗り越えられる街へと転換する提案である。砂町銀座は店主の高齢化が進むなどの課題を抱えており、災害シミュレーションの結果からも避難所や備蓄倉庫の不足が懸念される。そこで、間口や高さについて従前のスケールを維持しながら、地上と上階を視覚的・動線的にシームレスな縦動線で結び、上層に耐災害施設などを設けるというルールのもとで商店街に面した建築を建て替えすることで、災害へのレジリエンスを高めている。プロトタイプとして、空き地・空き家の利用、既存建物の屋上利用、木造密集家屋の建て替えなどのパターンが想定されているほか、空間の用途もシェアスペースを設けることで地域の「顔見知りネットワーク」の形成に寄与させようとするなど、地域文脈の分析をもとに検討されている。
大月敏雄 提案は非常に建築レベルまでいっていて、好感がもてました。実際的な提案が建築空間までできていたよかったです。特に1階や2階をセットバックしてニッチな空間にするのは非常にうまい提案だし、上越の雁木や黒石のこみせのように、日本らしい空間で、未来的なものを処理するのは良いと思います。木造で2階まで浸水して、水流があると、水害で倒壊する建物・モノがあって、流れて悪さをするということもあるりそうなので、ものを留めておく小さなデバイスなどもあるといいと思いました。小さい垂直避難はリアリティがあるが、高齢者や体が不自由な人のスムーズな避難を手助けする工夫があると良いと主ました。
小林秀樹 外階段はシンプルだが、印象的で、また効果的に機能するのではと思います。東日本大震災では誰かに呼びかけをされて避難をした人が多かったようです。外階段がそこにあると、視認性が高く、逃げられたということに繋がる、避難意識が喚起されるように思いました。ただ階段であることで、ハンディキャップがある人への対応は気になりました。リフトアップできる工夫があるといいと思います。
小野悠 継承できたらいいと思うものを、真っ向から具体化するアイディアは良いと思います。拠点のプロトタイプを提示して、点として一つずつ実現していく、更新されていくという提案だと思いますが、こうした操作を通して2040年に商店街や暮らしがどうなっていくかが、将来像が明らかになっていると良いと思います。
マルチモーダルな物流手段の整備とコミュニティの形成を通じた緊急時における物流導線の冗長性の確保の提案(辰巳地区)
C班:月田光・菊池裕太(社会基盤)、劉嘉林(都市工)、田中真由・坂下航徳(建築)、日比野遼一(社会基盤)
提案概要
東京都の辰巳一丁目〜三丁目を実験特区として新たな物流・交通を段階的に導入することで、災害時にも潰れることのない物流網と生活の変容を目指す提案である。具体的には、ドローン・船・自動運転といった新たな交通モードの導入、高速道路のサービスエリアを基にした新たな交通モードのハブとなる広域物流拠点の整備、小型自動運転モビリティや荷物運搬ドローンなどの交通手段とコミュニティづくりによる人と人という物流の末端のつながり構築を提案し、2020年から2040年までの整備プロセスタイムラインを、社会状況の変化とともに描いた。
小林秀樹 舟運については、内部河川は2mほどの干満の差を受けるところもあるので気をつけたほうがよさそうです。今すでにある防災船着場のようなものではなく、陸揚げするためのクレーンが設置されていれば、提案してもらった考え方も次々に展開できるかもしれません。モーダルシフトで、車より鉄道といった流れもあるなかで、CO2の減少などの定量的な話もあればいいと思いました。
宮城俊作 このシステムが進化していく段階で、居住者側の住環境が、どう変化していくのかをパラレルに考えている点にリアリティを感じました。住宅再開発の話が出ていましたが、どういった空間やデバイスを用意すればいいのかを提案できると、さらにイメージが拡がると思います。今後は物流のあり方がツリー型からネットワーク型になることによって、小さなプラットフォームのありようが変わるとしたら、それが日常的な生活環境にどう嵌め込まれていくのか、といった提案も期待します。
福田大輔 新しいモビリティ、ネットワークの冗長性など、比較的近未来の話を、令和島のようなところにまで広げて検討しているというユニークさを感じました。辰巳は臨海部の入口で、水路の物流としての配送の機能はどれくらいあるのかというところのリアリティは気になります。物流は端末と幹線と蓄積所があって、それらを見立ててより突っ込んだ提案をしてほしかったです。また、人の交流の機会とはどんなものかも深めてほしいと思います。
ロで生きる(千石地区)
D班:田端俊也(社会基盤)、塩崎洸・池内亮太(都市工)、松戸香奈枝・鈴木敦己(建築)、湖東陸(新領域)
提案概要
甚大な水害被害が予想される千石地区を舞台として、ミズベとの新たな共生を目指す提案である。江東区特有である内部河川沿いの微高地に着目して、周辺より早く水が引く「ロ」の字型空間への機能集中と集住を進める計画とした。基盤として、浸水しないデッキを中心としたストリート状の避難拠点「ミズベストリート」を設計する。デッキはスロープ・階段・視線によって周辺の公園や施設と連携し、デッキ下には仮設トイレやゴミステーション、飲食テラス等の機能を配置することで日常から災害時まで人が集う空間となる。被災時には川沿いの災害復興拠点を結び緊急復旧時の避難拠点としての機能を強化する。また、水路、陸路と連携して物流拠点としての機能を果たす。復興期にはストリートが仮のまちとして栄えて避難生活を支え、更新期にはストリートを基盤とした災害に強い生活拠点が形成され、かつての橋詰広場のように賑わう水辺空間が創出される。
宮城俊作 発表を聞いていて楽しかったです。提案のように微高地に暮らしを移行するのは合理的だと思います。ちなみに押上は土地を押し上げたからという言われがあるようです。気になるのは、最終的に「ロ」の字に集積する機能や住まいの量は、現在、内側に住んでいる量と対応しているかという点です。中央部の密度が下がることによって、都市としての魅力を高めることになっていると良いと思います。 中央部のオープンスペース側でも面白い提案ができたらいいですし、むしろそちらが重要ではないかとも思います。
水谷晃啓 宮城先生と同じように、中心部の空いている地区をあわせて提案できたら面白いなと思いました。デッキの高さレベルは一定なのでしょうか。積極的に水辺に移住していった後を想定して、計画としての理想的なデッキレベルの高さ設定があっても面白かったと思います。
福田大輔 「ロ」の内側が閉鎖されたような状況を発災直後には想定しているように見えましたが,垂直避難した住民の孤立がどのように解消されるのかが、もう少し具体的に示されるとなお良いなと思いました。また,「ロ」と「路」を計画上で何か関連付けられたりできると面白いと思います。
水でつながるまち・人・未来(越中島地区)
E班:増田慧樹(社会基盤)、黒島綜一郎・神谷南帆(都市工)、張楚君・三浦隆哲・Asmaa Lahayrech(建築)
提案概要
対象地域の江東区越中島は,エリアごとに居住形態・住民属性が異なる.首都直下地震発生1年後に大規模台風と荒川破堤による浸水を災害シナリオとし,エリアごとに被害の異なる越中島地区の一体的な復興過程を考え,なるべく低コストで住民の地域外流出を防止する事前復興プランを提案する.各提案に共通するコンセプトは,豊かな水辺空間を活用して多様性のある地域内をつなぐこと,既存の建物の活用である.空間操作としては,まちと越中島公園,海洋大学間のアプローチを改善し,平時の行き来をと非常時のスムーズな避難を可能にする.越中島公園を深川例大祭の前夜祭の場とし,仮設商店街の展開や船宿の陸揚げの定期確認,提灯による避難経路のライトアップ等祭りを生かした防災訓練の場の役割を果たし,復興時には仮設商店街として利用される.大学構内の明治丸周辺,越中島川,干潟といった越中島全体に広がる水資源を接続させることで住民の日常の交流を促すとともに,浸水時の水運の活用等,事前復興的に活用していく.
小林秀樹 地域の歴史的背景をよく調べてくれていました。海洋大や都立商業高校、深川三中など,対象地の周辺は学校がたくさんあります。小学校から大学からいろんな大学が密集しているところなので、海洋大のキャンパスプランを考えるのはおもしろそうです。江東区,中央区ということではなく,地理的なポジションからの提案があり得るのではないかと思います.たとえば、佃島から海洋大に避難するなど、行政区を超えた考え方があってもいいと思います。
小野悠 モザイク状の東京として捉えていた提案だと思います。東京的な地区レベルの共助のデザイン、という印象を受けました。丁寧に解いていて素晴らしいと思いましたが,他の地域に一般化できるのかが気になります。一般化できるとしたら、その際のエッセンスや考え方について考えてもらえるといいかと思いました。
横張真 提案のような内容だと、全体を上手にコーディネートする組織・集団・個人が必要だと思われました。そこをどうデザインするかが、ひとつのキモになるように思うので、ソフトに振った提案もあるとよかったと思います。商店会で何よりも印象的なのは、そのオープンさでした。一般に古くからの商店会が持つ閉鎖性・排他性がなく、きわめてフレキシブルな体質が、街の新陳代謝を活発にしている印象でした。そうしたキャラクターをうまく活かした仕組みの提案があるとよかったように思いました。例えば、倉庫業を復興復旧パートナーに認定するなど(名目はなんでもいいですが)し、土地を与えて企業に建物を建ててもらい一部を借りるという形などがあるのではないかと思います。